『ピテカントロプスになる日 vol.2~Woman Sings “やな” Song~』 Special Talk 小谷美紗子×柳原陽一郎 

中学3年のときに『さよなら人類』を聴いて、「すごく芸術的だな……」と思ったという小谷美紗子。かたや知人に勧められて小谷美紗子の3枚目のオリジナルアルバム『うた き』を聴き、「すごいわ……」と感銘を受けたという柳原陽一郎。ともすれば言葉のほうが注目されがちな2人であるが、実はある意味サウンド志向。そんな、歌の力には定評のあるシンガーソングライター2人が、いったいどんなセッションを繰り広げるのか──。互いにリスペクト山盛りの「ストレートvsスローカーブ」ジョイント、乞うご期待!

「『さよなら人類』には衝撃を受けました。もう構成がすごいなって」(小谷)


●柳原陽一郎(以下、柳原):ご出身は京都の宮津市なんですよね? 僕も小学校まで京都の向日町だったんです。

●小谷美紗子(以下、小谷):えっ、そうなんですか?

●柳原:小学校4年の担任が宮津出身で。ビリーバンバンが好きな先生でね。僕にギターの弾き語りを初めて聴かせてくれたのが、その先生。

●小谷:なんだか奇遇ですね。

●柳原:そして小谷さんが僕の曲を初めて聴いてくれたのは、中学3年生のときだとか?

●小谷:はい。友達が持っていた『さよなら人類』のシングルを貸してもらって、ダビングして聴いていました。その頃は父親が聴いていた洋楽とか、母が好きな井上陽水さんや越路吹雪さんを聴いていて。いわゆるテレビで流れているような音楽っていうのを、全然知らなかったんですね。それこそ光GENJIとかも知らなくって。でも友達が歌っていた『さよなら人類』を聴いたとき、「な、な、なん……? なんだ? この曲は……!」となって。

●柳原:「変なの……」って感じだったですかね、やっぱり。

●小谷:いや、すごくいい曲だなと思いましたね。すごく芸術的だと思いました。それまではテレビで流行っているものが街で聞こえてきても、なぁ~んとも思わなかったんですけど。『さよなら人類』には衝撃を受けました。

●柳原:ほぉ~。ふふふふっ。

●小谷:もう構成がすごいなって。

●柳原:構成?

●小谷:例えば演歌とかJ-POPは曲の途中でテンポが変わったり、突然ブレイクしたりっていうことが、あまりないじゃないですか。でも私が好きで聴いていたクラシックって、そういうことは常にあるので。自分が演奏したい、書きたいと思っている曲と近いなって思いました。ただ私は気に入った曲があると、それしか聴かないので。たまの曲も『さよなら人類』ばっかりずっと聴いていました。

●柳原:他の人の曲は?

●小谷:それは聴きます。でもこの人のこの曲、みたいな感じでリピートで聴くというか。エクストリームの『モア・ザン・ワーズ』って曲が世界で一番好きなんですけど、エクストリームの他の曲を1曲も知らないんです。

●柳原:弾き語りっぽい曲ですよね。でもあの曲、エクストリームの曲では異色ですよね。

●小谷:そうなんですってね。

●柳原:あ、他のを知らないから(笑)。

●小谷:ふふふふ。そうなんです、あの曲で充分なんですね。たまは、そのあと友部(正人)さんと一緒にやってらっしゃるのも聴かせていただきました。(注・『けらいのひとりもいない王様』友部正人・たま共作アルバム、1992年リリース)

●柳原:僕は小谷さんの作品の『うた き』っていうアルバムを、リアルタイムで聴いてるんです。(注・1999年リリースの3rdアルバム)

●小谷:えぇぇぇぇぇ─────!!!!!

●柳原:ギタリストの菅原弘明さんから「すごく面白い人がいるよ、小谷さんっていうんだけど」って聞いて。で、『うた き』を聴いたんじゃないかな、「すごいね」って言いながら。でも今回、改めていろいろ聴かせていただいたら、全然印象が違いました。

●小谷:そうですか?

●柳原:言葉を選ばずに言うなら、こんなに音楽的な方だったんだ、って思いました。

●小谷:あはははは。

●柳原:最初の印象は中島みゆきさんとか、日本のフォーク系シンガーソングライターっていうイメージがあって。ずっと歌詞の方だと思ってたんですけど、そうじゃなかったんだぁって。もちろん歌詞も大事だと思うんです、でも、それ以前に音楽があるというか。音から言葉をフィードバックさせてる方なのかなって、そんな気がしたんですね。

●小谷:嬉しいです。たしかにそうですね、周りからは歌詞のことをよく言われますね。

●柳原:そうでしょ。

●小谷:でも私には、どっちも同じくらい重要なんですね。歌詞がなくても届けられるように、と思っているので。『さよなら人類』は、まさにそうだったんです。歌詞カードとか見ない状態でも感動しましたから。クラシックもそうですけど。そういうとこを目指しつつも、でも歌詞にもこだわっていて。だからなのか、歌詞がいいねって言われることが多かったですね。

●柳原:歌詞もだけど、歌の力? そういうところに感動いたしました。

●小谷:ありがとうございます。嬉しいです。

「14歳にして“嘆きの雪を体にあびて 燃え尽きそうな”って書けたとは……。すごいわ、やっぱり」(柳原)


●柳原陽一郎(以下、柳原):小谷さんが自分で曲を作ろうと思ったのには、何か理由があったんですか?

●小谷美紗子(以下、小谷):最初はピアノを頑張っていたんです。クラシック音楽が好きで、ピアニストになりたかったんですけど。小学3年生くらいのときに、自分が弾きたい曲が弾けなくて。どうしてもオクターブに指が届かなかったんです。

●柳原:手が小さかった。

●小谷:はい。それでちょっと挫折をしまして。その頃からちょっとずつピアノ曲を書くようになったんですね。でもやっぱり物足りないなぁ……と思うようになって。ピアノと同じくらい歌も好きだったので、弾き語りで曲を書くようになりました。

●柳原:僕の周りにも中学2年か3年で曲を書く人がいて。もう、よくわからなかった、どういう頭の構造になってるんだ!?って。14歳か15歳にして歌詞を書いて、しかも大人びた歌詞を書いて、曲をつけて。も~のすごいジェラシー(笑)。僕なんかずっとサッカーしてるか、友達とつるんでるだけの15歳でしたから。

●小谷:曲作りはいつから?

●柳原:高校1年くらいからギターをいじりはじめたかな。

●小谷:そんなに変わらないじゃないですか (笑)。

●柳原:でも作ると言っても、深夜放送の悪ノリみたいな歌ですからねぇ。「女の子はそんなに優しくないよ」みたいな歌をあえて歌うような。小谷さんは中学生の頃、どういう曲を作っていたんですか?

●小谷:デビュー曲の『嘆きの雪』を中学2年生くらいのときに書いたんですけど。

●柳原:14歳にして“嘆きの雪を体にあびて 燃え尽きそうな”っていう感じになった。書けた。

●小谷:はははははっ。

●柳原:すごいわ、やっぱり。小谷さんはどちらかというと直球じゃないですか。でも僕はだいたいスローカーブみたいなのばっかりだから(笑)。中学の頃は、ちゃらんぽらんのヘタレ。

●小谷:私は怖いもの知らずでした。

●柳原:勉強とか好きでした?

●小谷:高校に入ってから好きになりました。

●柳原:私は高校になって壊滅的になりました。

●小谷:壊滅的……、あははははは。

●柳原:んふふふふ。なぜ好きになったんです?

●小谷:それまでも作曲に必要な英語とか国語は好きだったんですけど、それ以外のものは自分には必要ないと思って、教科書も学校に置いて帰っていたくらいだったんです。もう自分がやりたいものだけやるっていうタイプだったんですけど。高校に入るちょっと前に、父から「成績が後ろから数えたほうが早いくらいでも、ちょっとの努力で一番になれるんだよ」って言われて。「なれるの?」と思って勉強するようになったら、だんだん楽しくなって。実は世界史とか古典に興味を持っていた、ということもわかってきて。それから勉強するようになりましたね。

●柳原:正しいあり方ですね。興味を持って初めてやるわけでしょ。イヤイヤでもなく、受験のためでもなく。素晴らしい。僕はイヤイヤでしたから。ある瞬間から、先生の言葉がまったく頭に入ってこなくなっちゃった。洋楽は好きだったから英語はちょっとわかったけど、数学はさっぱりだし。物理化学は全滅。地学の、星の距離を測るのだけは好きだった。

●小谷:……(笑)。

●柳原:「何光年か求めよ」っていうのは好きだったけど、それだけ。地理なんかも収穫高はいいから、鉄道のことを教えてくださいって思ってた。

●小谷:鉄道好きなんですか?

●柳原:はい。阪急電車が一番好き。子供の頃の夢は阪急電車になることで。

●小谷:電車そのものになりたかった (笑)。

●柳原:そう、そのものに。なれなかったです(笑)。音楽家以外のものになりたいと思ったこと、ありますか?

●小谷:動物保護官にはなりたいと思いました。

●柳原:ほぉ。やっぱりすごいわ、阪急電車になりたいと言ってる人とは違う(笑)。

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