TommyGuerrero『サンシャイン・ラジオ(Sunshine Radio)』ロングインタビュー

2021年1月20日、トミー・ゲレロ(Tommy Guerrero)はニュー・アルバム『サンシャイン・ラジオ(Sunshine Radio)』をリリースした。コロナ禍の真っ只中にあり、ロックダウンの最中にもトミー創作活動を止めることはなかった。彼が影響を受けたファンク、ソウル、サーフ、マカロニ・ウェスタン、そしてアフロビートにデザート・ロックなど、さまざまな音楽を包括し、その中にトミーならではのオリジナリティを加えた新しい音は、アンビエントの色合いを垣間見ることができ、さらにエモーショナルな作品として仕上がっている。とりわけ今回は、スピリチュアル・ジャズ、アフリカ音楽、マカロニ・ウェスタンの要素が強いのも特徴だ。そんなトミーのロングインタビューが、カリフォルニアから届いた。その中でトミーはアルバム制作の話はもちろん、音楽と幼い頃のスケートボード生活、人種差別問題、アルバム制作にも大きな影響を与えたアメリカの社会情勢なども語っている。今回のWeekend Sessionでは、トミーのインタビューを中心に、この『Sunshine Radio』と同日にリリースされた、トミーと彼をサポートしてきたミュージシャン、ジョシュ・リッピ(Josh Lippi)と結成した新しいユニット、ロス・デイズ(Los Days)のアルバム『シンギング・サンズ(Singing Sands)』 -トミーとジョシュが南カリフォルニアのワンダーバレーという砂漠エリアに旅し、大自然の中で制作したインストゥルメンタル・アルバム-などの話を交えてお届けしよう。

インタビュアー:バルーチャ・ハシム廣太郎 (Hashim Kotaro Bharoocha)
Photo by Claudine Gossett

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Photo by Claudine Gossett

アルバム『Sunshine Radio』の制作はいつから始まり、どのくらいかかったのでしょうか?

トミー・ゲレロ(以下TG): 確か、2019年の終わりから今年までレコーディングしていたよ。急にクリエイティブになってレコーディングに没頭したり、しばらくレコーディングしない時期もあったんだ。でも、このアルバムはもう完成して何ヶ月も経っている。コロナ禍によるロックダウンが始まる前にレコーディングし始めたんだけど、大半の素材は昨年の終わりにレコーディングした。実は、すでに次のアルバムの素材もレコーディングし終わってるんだけど、その作品ではバリトン・ギターを演奏しているからサウンドが違う。ロックダウン中は、レコーディングする時間がいっぱいあったんだよ。息子の世話もしないといけなかったから、息子と過ごしている時は、あまりレコーディングができない。レコーディングする時は、最低でも一人で4時間制作に没頭する時間が必要だからね。本当は『Sunshine Radio』を20年の7月にリリースして、日本でオリンピックのイベントに出演したり、ジャパン・ツアーをやるはずだった。10月からヨーロッパのツアーもする予定もあったんだけど、キャンセルになったよ。

2020年は世界中がコロナ禍に席巻され、アメリカでは人種問題や警察による黒人の暴行事件が続出しましたが、このような社会問題はこのアルバムにどのような影響を及ぼしましたか?

TG: アルバム制作中にアメリカで起きた社会問題は、主に曲のタイトルに影響を与えた。「Evolution Revolution」、 「Of Things to Come」、「A Thousand Shapes of Change」、「Up from the Dust」、「Rise of the Earth People」、「The Road Under My Shoes」のタイトルは、アメリカで起きた社会問題と直接関係があるんだ。

前作の『Dub Session』ではダブとブレイクビーツのアプローチを組み合わせていましたが、新作はファースト・アルバム『Loose Grooves & Bastard Blues』や『The Endless Road』など、あなたのルーツとなるサウンドを取り入れつつ、よりアンビエントで抑制された、時には不穏なサウンドが際立っています。このサウンドの変化には、社会情勢からの影響もあったのでしょうか?

TG: それは間違いなくあったね。今の時代を反映させたサウンドを作り出したかった。今のような激動の時代を乗り越えるには、誰もが心の落ち着きを必要としているから、アンビエントの要素が増えたんだと思う。だから、落ち着いたサウンドの曲もあれば、張り詰めた緊張感が漂う曲もある。こんな社会情勢だから、誰もが少しは精神的に不安定になっているわけだけど、それが緊張感のあるサウンドとして現れている。だから、曲を作っている時に感じていたエモーションによって、サウンドが変化した。アルバムを制作している時に、アンビエントなアルバムを作ろうかと思った時期もあったんだ。そうすることで、平和な気持ちをみんなに与えたかった。希望に満ちた曲も入っているから、多様性のあるサウンドやエモーションが表現されている作品に仕上がったと思う。

あなたは、もともとベーシストのバックグラウンドから来ているので、グルーヴ感が強い曲も入っていますが、全体的にメロウで落ち着いたサウンドにしたいという意図はあったのでしょうか?

TG: 俺は即興的に曲を作ることを大切にしていて、目の前にあるパーカッション楽器を使うことが多い。 そこからベースラインを演奏するんだけど、それが曲のフィーリングを作り上げるんだ。どんなギターのフレーズをプレイしたとしても、パーカッションとベースの絡み方が曲のムードを作り上げる。メロウな土台があれば、メロウなアプローチでギターを演奏するし、ヘヴィなグルーヴが土台にあれば、ギターはもっと激しくプレイする。

『Sunshine Radio』をリリースする前に、あなたのツアー・バンドのベーシストであるジョシュ・リッピとのユニット、ロス・デイズのアルバムもリリースされましたが、その作品について教えてください。

TG: ロス・デイズのアルバムは、ソロ・アルバムの前にレコーディングしたんだ。南カリフォルニアにあるワンダーバレーという砂漠でレコーディングしたんだよ。友人の家がそこにあって、そこに機材を持ち込んで、事前に何も決めずにレコーディングし始めた。前もって作った曲は一つもなくて、砂漠にいた1週間の間にすべて作り上げたんだ。ジョシュは素晴らしいミュージシャンだし、友達だから、アイデアを出し合って作る作業が楽しかった。来年の春になったら、ワンダーバレーにまた二人で行って、ロス・デイズのセカンドをレコーディングしようと話し合ってるんだ。

ロス・デイズのサウンドは、非常にマカロニ・ウェスタンの影響が強く、その要素は『Sunshine Radio』にも反映されていますが、この二つの作品に関連性はあるのでしょうか?

TG: いや、このサウンドはもともと俺が好きな音楽なんだ。アルバム『No Man’s Land』からマカロニ・ウェスタンの傾向が強くなったんだよ。このアルバムをリリースしてから、それ以降の自分の作品のマカロニ・ウェスタン的なアプローチが強くなったんだ。俺とジョッシュがレコーディングした時は、なるべくミニマルな機材でムードのあるサウンドをクリエイトしようとした。ロス・デイズのアルバムのサウンドやムードはとても視覚的でシネマティックだよ。マカロニ・ウェスタンのサウンドは、俺の音楽性の一部になっているんだ。自分の音楽の核となる音楽的要素は、サーフ・ミュージックやマカロニ・ウェスタンで、それを自分のベースプレイと組み合わせているから、ユニークなサウンドをクリエイトできたんだと思う。様々なスタイルの音楽的要素を融合させているんだ。

アルバム・タイトル『Sunshine Radio』の意味について教えてください。

TG: 希望に溢れたタイトルにしたかったんだ。どこか架空のラジオ局にチャンネルを合わせると、そこから俺のプレイリストが流れる、という物語も想像していた。ブライアン・バーネクロ(Brian Barneclo)と仲良くなって、彼がアルバムのアートワークを手掛けてくれることになった。それで、ラジカセをジャケのモチーフにして、『Sunshine Radio』というタイトルにしようと思いついたんだ。具体的にインスピレーションになったものはないんだ。アルバムにはいろいろなフィーリングの曲が入ってるから、ラジオ局をテーマにするのも面白いな、と思った。

このアルバム・タイトルを最初に見た時、こういう暗い時代だからこそ、みんなをポジティブな気持ちにさせるタイトルだと思ったんですが、そういう意図はあったんですか?

TG: それはあったね。こういう緊迫した時代だからこそ、ポジティブなメッセージを打ち出したかったんだ。希望や光を感じさせるようなタイトルにしたかった。暗闇から光が生まれるからね。

ジャケットのアートワークを手掛けたブライアンには、トミーからアイデアを伝えて、それに基づいて描いてもらったんですか?

TG: そうだね。そのあとに彼からいくつかのスケッチや提案が来て、話し合いながら作ってもらったんだ。最終的に俺が思い描いていたビジョンがジャケットで形になったよ。

ラジカセというのは、10代からスケートしていたトミーにとって大切な存在だったのでしょうか?

TG:それは間違いないね。スケボーをやるときは、必ず音楽が必要だからラジカセは必需品だったよ。みんなとスケートセッションをやるときは、誰かがラジカセを持ってると嬉しかったのを覚えてる。ウォークマン(Walkman)が登場した時も、どこにでも音楽を持って行けたから、革命だったよ(笑)。

音楽的には、何かビジョンやコンセプトを持ってレコーディングし始めたんですか? それとも白紙の状態からスタートしましたか?

TG:レコーディングするときは、いつも白紙の状態から始めるんだ。日本盤での前々作は海外盤が『Road to Knowhere』、日本盤のタイトルが『Endless Road』だったんだけど、その続編になるようなアルバムを作りたかった。フィーリングは似ているし、ファンク、ソウル、サーフ、マカロニ・ウェスタン、アフロビート、デザート・ロックの要素が前作にも新作にも入ってる。そういう音楽的要素は自分の一部になっているから、それを自分というフィルターを通して、曲を作っているんだ。『Road to Knowhere』は多くの人に愛され、ヴァイニル(アナログ)だけで7000枚も売れた。ちゃんと流通もしてないし、プロモーションもしていないし、レビューもどこにも載せてないんだけど、口コミでアルバムの評判が広がっていったんだ。自分の音楽や自分のことを知らない人、スケーターでもない人から、このアルバムについての問い合わせがくるから、そういう意味で作り甲斐があったよ。

あなたが言った通り、『Sunshine Radio』には『Road to Knowhere』の要素も入っていますが、サウンド的に原点回帰しようという意図はありましたか?

TG: いや、そういうことは意図してなかった。自然とこういうサウンドになったんだ。いつか、『Loose Grooves〜』みたいなアルバムをまた作りたいとは思っていたけど、同じ作品を繰り返すんじゃなくて、そのスピリットを継続したい。だから、そのフィーリングが曲によって湧き出てくることもあるんだ。

『Road to Knowhere』は口コミで広がったと言ってましたが、Youtubeであなたの過去の作品は、世界中から驚くほどの再生回数を獲得しています。Youtubeやネット上から火がついたローファイ・ヒップホップ・ムーヴメントを好む若いリスナーが、あなたの音楽に共感して聴いてるのだと思いますが、いかがでしょう?

TG:そうだと思うし、それはすごく嬉しいことだよ。俺の息子がローファイ・ヒップホップ・ムーヴメントに一時期ハマってたから、彼には「これは昔のインストゥルメンタル・ヒップホップと同じだよ」と教えたんだ(笑)。もともとヒップホップはローファイだったから、このネーミングが不思議だと思っちゃうんだけど、若い連中が、昔ながらのヒップホップ・サウンドの素晴らしさに気づき始めたんだと思う。若いプロデューサーたちが、ループ、サンプル、ブレイクを主体とした昔ながらのヒップホップの作り方を取り入れたり、メロウなヒップホップを作って、それが再評価されてるんだ。そこから若い連中が、俺らが聴いていたア・トライブ・コールド・クエスト、ギャング・スター、KRSワン、エリックB・アンド・ラキム、パブリック・エネミーなどのオールドスクール・ヒップホップに興味を持ってくれたら嬉しいね。今のヒップホップは、昔とあまりにもサウンドが違うから、息子にオールドスクール・ヒップホップを聴かせたら、「これってラップなの?」と聞かれたんだ(笑)。笑っちゃったけど、「ここからラップが始まって進化したんだよ」と教えたんだよ。でも、そういうローファイ、チル系のサウンドがきっかけで、俺の音楽に興味を持ってくれる若者が増えているのは嬉しいよ。

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