【Live Report】
ピテカントロプスになる日 vol.4
〜歌手と詩人とロックンローラー〜

文:櫻井 央(duo MUSIC EXCHANGE)/ Photo by 深堀瑞穂


柳原陽一郎とMUSIC for LIFE(duo MUSIC EXCHANGE)の共同企画「ピテカントロプスになる日」も、今夜で4回目の開催となる。今回、”歌手”柳原陽一郎と同じステージに立ったのは、”詩人”柴田聡子、”ロックンローラー”奇妙礼太郎の2人。柳原さんをして「才能が掛け流しになっている」と言わしめた彼らとのセッションの行方はいかに。

BGMが流れる中、暗がりからゆっくりと柳原さんが登場し、ギターを手に取ると、第4回を迎えた「ピテカントロプスになる日」への感慨を込めて、静かにスピーチ。”ほんとうスキな人”をはじめ、古いメキシコの不法移民の歌を訳したという(現アメリカ大統領への思いも込めた)”Deportee”、”たかえさん”と、3曲を披露し、開会宣言とした。

最初に呼び入れた共演者は、昨年詩集『さばーく』を発売し、美術展のインスタレーションにも参加するなど、音楽活動に限らず、幅広く各界を賑わす柴田聡子。柳原さん曰く、フランク・ザッパ、XTCなどアバンギャルドなロックシーンを彷彿させるという、一癖も二癖もある歌詞世界が魅力だ。
1曲目は、5月に発売されたニューアルバム『愛の休日』から”ゆべし先輩”。架空の先輩を描いたどこか懐かしさを誘うナンバーから、ほとんどMCもなくつらつらと歌い上げていく。”あさはか!”、”ワンコロメーカー”といった柴田節炸裂の楽曲から、ラストは“リスが来た”までノンストップ。柳原さんは「今年僕が聴いた中で一番ショックを受けた曲」「最近頭から離れない」というほど、一度聴くと口ずさまずにはいられない(もちろん良い意味で)キテレツな楽曲だ。柳原さんもたまらず、マイクを手に取り、コーラスで入っていた。

ソロタイムが終わると、ステージ後方のソファから柳原さんがおもむろに立ち上がり感想を述べ、早速セッションへと突入していく。セッション曲の中で個人的に響いたのは、柴田さんがチョイスした柳原さんの楽曲”ひまわり”。「長野県の女の子が東京に暮らしていてやれやれ」と思っている歌、ということで、母の実家が長野にある僕は、東京から山梨を経て、長野へ向かうにつれて、グラデーションのように風や空気が薫りづいていく感覚を思い出して、鼻腔がくすぐられるような、なんだかホッとしたような気持ちになった。続いて、柳原さんの“とこやはどこや”。最後の柴田さんによる「とこやはどこやー!」のシャウトには思わず笑ってしまったが、この曲をチョイスしたこともさることながら、見事にハマリ役となっていた彼女に大きな拍手を送りたい。セッション3曲目はなんと共作、「大阪の岸和田の方の出身の野球選手」の歌”Kの話(仮)”。スターの感情の機微と確信に触れられそうなほど、細かに野球選手Kの姿が浮かんでくる。あぁなんと切ない楽曲なのだろう。最後は、柴田さんの”大作戦”で、賑やかにセッションは終了。

珍しくエレキギターを手に取り、やな節歌謡曲3曲を披露した柳原さんが次に招いたのは、歌手でもシンガーソングライターでもなく、自らをバンドマンと称する奇妙礼太郎。金色に染めた髪を揺らしておもむろに登場すると、無言でギターを取りつま弾き出し、”天王寺ガール”へとなだれ込む。柴田さんと同じようにMCはほとんどなく、即興的に次々と楽曲を披露していく。奇妙さんの魅力は何と言ってもその声だろう。囁く時もシャウトする時も、その声は僕らの涙腺や琴線といったあらゆる心の弦に共鳴していく。特にグッときたのは、”よっぱらってる、いつも”。ライブでは毎回全く違うアプローチで楽曲を奏でる奇妙さんだが、今夜この瞬間のこの曲が、僕の胸に響いた。ビートルズや尾崎豊の楽曲も見事に自らのものにしていき、最後は”Nobody knows”で、30分ほどのセットを終了した。

お待ちかね、柳原さんとのセッションタイム1曲目は、John Lennonの”Hold On”。即興でビートルズフレーズ対決も飛び出し、セッションならではの醍醐味を味わうことができた。続いて、9月にリリースしたばかりの、奇妙さんのメジャー1stアルバム「YOU ARE SEXY」から、” 君はセクシー”をセッション。柳原さんは、奇妙さんの歌声に寄り添うようにアコーディオンで参加。最後は、「キング・オブ・ロケンローがキング・オブ・ロケンローを歌う」ということで、柳原さんの” キング・オブ・ロケンロー”を披露。酒場(あえて居酒屋ではなく)で演奏されているような、土臭く陽気な楽曲で締めくくった。

「なんか今日は面白かったなぁ。シンガーソングライターの夕べ、といった感じで。」と感慨深げに柳原さん。最後は柴田さん、奇妙さんの3人でお決まりの“さよなら人類”。盛大に出だしを間違えた(笑)奇妙さんも、柴田さんの歌声も楽曲に見事にマッチしていて、改めて名曲の懐の深さを知る。
名残惜しそうな大きな拍手の中で、柳原さんがアンコールで” 航海日誌”を演奏し、「ピテカントロプスになる日 vol.4」は終演した。

口数の少ない2人を相手に、心なしか、いつもよりも饒舌だった気がした柳原さん。印象に残ったのは、「悩み事の大概のことは悩んでいる意味がなくて、歌を歌っているとそれを思い知る」という柳原さんの言葉。言葉は少なくとも、音楽は多くを語る。”歌”の力強さを思った1日だった。

SET LIST

【柳原陽一郎】
ほんとうにスキな人
Deportee(不法移民の歌)
たかえさん

【柴田聡子】
ゆべし先輩
後悔
あさはか !
海へ行こうか
いきすぎた友達
ワンコロメーター
リスが来た

【柴田聡子 × 柳原陽一郎】
ひまわり(柳原陽一郎)
とこやはどこや(柳原陽一郎)
Kの話(仮)(柳原陽一郎 ×柴田聡子)
大作戦(柴田聡子)

【柳原陽一郎】
夢見の夢太郎
アラビヤ小唄
生きなっせ

【奇妙礼太郎】
天王寺ガール
make it better
よっぱらってる、いつも
Here, There and Everywhere(The Beatles)
ダンスホール(尾崎豊)
Nobody knows

【奇妙礼太郎 × 柳原陽一郎】
Hold On(John Lennon)
君はセクシー(奇妙礼太郎)
キング・オブ・ロケンロー(柳原陽一郎)

【柳原陽一郎 × 柴田聡子 × 奇妙礼太郎】
さよなら人類(柳原陽一郎)

【柳原陽一郎】
航海日誌


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