おおはた雄一

“おおはた雄一”インタビュー

おおはた雄一

2019年2月にソロデビュー15周年を迎えた、シンガーソングライターのおおはた雄一。オリジナルアルバムとしては9作目となるニューアルバム『眠る発光体』を引っ提げて、9月1日から『眠る発光体』リリースライブをスタートさせ、11月24日には自由学園明日館講堂での弾き語りソロコンサート「ギターの音が街に響けば 2019」を開催する。この15年間、変化の早い世の中や音楽シーンに流されることなく、ただひたすら自身の音楽と向き合い、追求してきた彼。15年間の振り返りから、最新アルバム『眠る発光体』、そしてライブについて訊いてみた。

■インタビュー・文:牧野りえ

── 1stアルバム『すこしの間』でデビューしてから15周年を迎えられましたが、デビュー当初はどんな夢や野望を持っていましたか?

おおはた雄一(以下、おおはた):僕は最初からそこが欠けてたんですよね(笑)。音楽を始めたときと同じで“ただギターが弾きたい”っていうだけで、“10年後、15年後にこうなっていたい”っていうことを考えたことがないんですよ。

── それでもやはりCDデビューが決まったときはうれしかったですよね?

おおはた:うれしさはあったんですけど、それよりも必死だったなっていう思い出ですね。まぁそれは今も変わらないですけど。当時から基本的にセルフプロデュースで、いわゆるプロデューサーがずっといなかったんですよ。レコード会社のディレクターと共同でちょっと作業をするようなことはあったけれども、ほとんどエンジニアの人と二人三脚でやってたんです。わりと一作品作り終わる度に“ああ、なるほどね!”って気づくことの繰り返しでしたね。周りにレコーディングしてるような友達もいなかったから。

── 一般的な作業工程がわからないまま、独自のやり方でレコーディングしていたということですか?

おおはた:そうです。だから3枚目まで、ベースが入ってないんですよ。それをある人から指摘されて、“そうか!”と思って4枚目からベースを入れたんです(笑)。低音が入るとレンジが広くなるし、それだけ音楽として厚みが出るじゃないですか。それがまったくないスタイルでやってたんです。それが逆に初期の頃の個性になってると思うんですけどね。その指摘してくれた方は、“面白いね。あえて入れてないんでしょ?”っていう意味で言ったんですけど。

── 何も意図せず、ただ入れてなかったと(笑)。

おおはた:その頃はベースという概念があまりなくて。そうやって作品ごとに試行錯誤しながらやってきた感じはありますね。

── 試行錯誤しながら、そのときにおおはたさんがやりたいことを音源に詰め込んできたという感じですか?

おおはた:そうですね。そういう意味では自分が望まないことはまったくやってないですね。たとえば人と組んで何か狙って作るとか、そういうことはなかったです。

── それを強要されることもなかったんですね?

おおはた:外部から“プロデューサーを立てたら?”っていう意見もあったんですけど、そんな話が出ているうちに、ジェシー・ハリスっていうニューヨークのミュージシャンと知り合いまして。ジェシーに“アルバム作りたいんだけどな”みたいな話をしたら、“じゃあやろうよ”ってすごい気軽に言ってくれて。それでジェシー・ハリスとリチャード・ジュリアンという2人のシンガーソングライターに共同プロデュースしてもらったのが唯一ですね。それは、ニューヨークに行って、ニューヨークのミュージシャンたちと作る、っていうコンセプトがありました。

── やはり勉強になったり、得るものも多かったですか?

おおはた:ジェシーたちと一緒にやってからですね、レコーディングもそうだし、ソングライティングもそうだし、モノの考え方もすべてガラッと変わったのは。いろいろ影響を受けましたね。でも、デビュー当初からそんなにめちゃくちゃ違うことはやってなくて、ずーっと変わんないんですよ。1stアルバムの曲も未だにやってるし。自分でもびっくりしますけど、1stアルバムを“最近のアルバムだよ”って言われたらそういう気にもなるし。新しい、古いっていうのがないんですよ。その時代によっての音作りをしてないから。ヒップホップみたいなことを取り入れたりもしてないし(笑)。ヘンな話、どのアルバムをかけてもあんまり変わってないなっていうのは思いますね。

── それって逆にスゴいことですよね!

おおはた:まあ、そういうタイプっていうことですよね。自分の決まった範囲の中で変化していくっていう。

おおはた雄一

── そんな中で7月20日にリリースされた最新アルバム『眠る発光体』はどんな作品ですか?

おおはた:これはね、もう適当にやろうと思ってスタジオに入って作りました(笑)。自分で言うのもナンですけど、家で録ってるデモテープが結構好きなんですよ。まったくコンピューターも使わないし、いわゆるMTRっていうオモチャみたいな機材で録ってるんですけど。それで今回は、スタジオで遊びながらというか、実験しながらいいデモテープを作ろうっていうのがテーマとしてありました。最高のデモテープを作るぞ! みたいな。カッコいい言い方をすれば、スタジオに楽器だけバーンと入れて、そこから“じゃあ何か始めてみよう”っていう感じでやっていったんですよ。よくできたなぁと思います(笑)。いわゆる古き良きレコーディングスタジオで録ったんですけど、それがとってもよくて。

── エンジニアの方と2人で作っていった感じなんですか?

おおはた:ほぼそうですね。ブレーキをかける人がいなかったので、それはいいやり方でした。モノを作ってて、途中で判断しちゃうことってあるじゃないですか。“あ、これやっぱ合わないな、やめておこう”とか。今回はそういうのもやめたんですよ。とりあえず合わない音も全部入れちゃおうと。

── まずは思いついたことをすべて入れてみて、後から抜いたほうがいいものがあれば抜くと。

おおはた:そうです。ギター2本を思うがままに弾いてみて、それをドンって一緒に出すと化学変化というか、思わぬ混じりがあったり、思わぬ倍音があったりして。そういう面白さもありましたね。それって絵を描くのと似ていて、絵の具を塗っていくようなイメージでやってました。だから楽しかったですよ、夢中でやれてたから。

── 歌詞は、曲がある程度、固まってから乗せていったんですか?

おおはた:いや、頭の中で歌詞を作りながら、曲もメロディも全部同時に作っていく感じです。「最終列車は夜の川を越えていく」っていう物語だけ歌い方に悩んで後からちょっと変えたりしましたけど、それでも歌詞カードは見ないでやってました。僕ね、歌詞を字で書くのが得意じゃないんですよ。ゆっくり書いてらんなくなっちゃう。ギターを弾きながら何回も何回も繰り返し歌いながら作っていくんですけど、ボソボソ歌いながら適当に作ってると、最初は何番もあるすごく長い歌ができるんですよ。「最終列車」もそうだし、「帽子の中にあった歌」もずいぶん長かったような気がするし。そこから言葉をちょっとずつ変えたりしながら刈り込んでいく作業が一番楽しいんですよ。

── たとえば「なくなったっていいさ」は“出来もしないのに引き受けて”という冒頭から共感しました(笑)。

おおはた:これは僕の人生を歌ってますから(笑)。

── 最終的に“なきゃないでいいならなくたっていいさ・・・”と歌っていて、本当にそのとおりだなと(笑)。

おおはた:これこそ絶対に文字に起こしてないですもんね。こんな歌詞を書いてたら、僕だったらちょっと付き合いたくないなあ(笑)。まさしく即興で歌い始めた歌ですよね。

── なるほど、ギターを弾きながら作ってるからこそ生まれた歌詞で、だからこそメロディと言葉のハマり方も気持ちいいんですね。これも昔から変わらないと思うんですが、おおはたさんの日常や思ったことをそのまま切り取ったような歌詞が多いですよね。

おおはた:たぶんずっとそうですけど、そのときの自分を書いてると思うんですね。ただ、年齢を重ねていく中で、より今の自分の現状を歌うようにはなってきてると思います。特にここ数作品ですね。たとえば耳に入ってきた人の会話で“面白いこと言ってんな”とか、“ああ、いい時間だったな”って思ったことが、ふとした時に出てきたり。その日の印象がどっかに残っていて、それが歌になってると思うんですけどね。

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── 9月1日から『眠る発光体』リリースライブが全国で行われますね。日常の中にライブがあるようなおおはたさんにとって、“アルバムを引っ提げたツアー!”という活動から一番遠い位置にいるような気がするのですが?

おおはた:鋭いですね(笑)。自分に課してる感じですかね、“頑張ってアルバムを売るぞ!”っていう。それだけです。一応“アルバムの曲たちを生で届けに行くよ”っていうことなんですけど、アルバムの曲だけだと35分でライブが終わっちゃうんで、これまでの曲も歌うわけじゃないですか。正直、“アルバムを引っ提げたツアー”っていう意識はないですよね。

── そういえば、おおはたさんはライブのセットリストを作らなかったですよね?

おおはた:そうですね。とはいえ、ひと月くらい考えてるんですよ。考えに考えて決まらないっていうパターンです(笑)。

── だからといって出たとこ勝負でやってるのではなく、ある程度決めてる選択肢の中でどっちにいこうかな? という感じでやっているのかなと。

おおはた:45分くらいのステージだったら何も決めなくてもいけるんですけど、90分とか2時間となると、ある程度流れがないと自分も飽きちゃうし。何となく最近、70分とか80分とかやるステージに特化していきたいなっていう気持ちはあるんですよ。バンドのワンマンだったらそれがふつうでしょうけど、それを1人でやって成立させたいなと思ってますね。

おおはた雄一

1975年茨城県生まれ。シンガー・ソングライター、ギタリスト。
2004年1stアルバム「すこしの間」でデビュー。現在までにオリジナルアルバム9枚のほか、カバー集、ギターインスト集など合わせ、17枚のアルバムを発表している。
代表曲「おだやかな暮らし」は、クラムボンをはじめ多くのアーティストにカバーされている。
2008年には、グラミー賞受賞アーティスト・Jesse HarrisのプロデュースによりN.Y.のミュージシャンたちと録音したアルバムを発表、話題となる。
近年では、2016年、金井純一監督の映画「ちょき」サウンドトラック全編と、主題歌を担当。サントラ盤をアナログレコードでリリース。
2017年4月、8枚目となるオリジナルアルバム「タイム・フライズ」(SONG X JAZZ)をリリース。
2018年1月には、リジッター企画の舞台「そこのこと」の音楽を全編にわたり担当した。
2019年、デビュー15周年を迎え、最新アルバム「眠る発光体」をリリースした。 

楽曲提供、アルバム参加などもシンガーソングライターとしては異例ともいえる、数多くの作品に参加。映画音楽・CM音楽、ナレーションなど、活動は幅広い。
坂本美雨とのユニット「おお雨」、福岡晃子(チャットモンチー済)とのユニット「くもゆき」としても活動中。

■おおはた雄一 Webサイト
 https://yuichiohata.com

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