小谷美紗子「PARADIGM SHIFT」スペシャルインタビュー

妄想200%で読んで欲しい、小谷美紗子初めての詩集

小谷美紗子が初めての詩集を発表する。タイトルは「発想の転換」「固定観念を捨てる」といった意味の言葉『PARADIGM SHIFT』。デビュー以来、いいことも、耳に痛いことも、どんなことも容赦なくキッパリと歌ってきたこの人を知る上で「歌」というものが固定観念であるなら、この作品はまさに発想の転換。歌になると密度の高い言葉の数々も、文字だけで接してみると驚くほど軽やかでやわらかい。歌詞と詩、歌と言葉、似て非なるものから見えた小谷美紗子の世界は、ある意味、これまで以上に豊かで美しいものだった。

■インタビュー・文:前原雅子

まだ曲になってない詩を先に見てもらう、それが一番の目的なんです。

──詩集を出すのは初めてなんですよね。

●小谷美紗子(以下、小谷):そうなんです。2年くらい前から、詩集を出してみたいと思うようになって。

──そう思うようになったのには何かきっかけがあったのですか。

●小谷:特にはなかったです。『MONSTER』(2016年5月リリース。弾き語りオールタイム・ベストアルバム)を出した頃だったと思うんですけど、スタッフとオリジナルアルバムや弾き語りのアルバムの話をするなかで、詩集っていうアイデアも出てきたんじゃなかったかな。あと、その『MONSTER』はジャケットや紙にもすごいこだわって作ったんですけど。(注:通常盤以外に作った木製の箱にCDなどを収めた“木の箱仕様盤”)完成するまでの過程を見せてもらうなかで、手に持って嬉しいものを作りたいって思うようになって。そのあたりから、小谷美紗子だったら、ファンの人は文字が欲しいのかな、詩集とか出せたらいいねって考えるようになったんですよね。

──そして満を持して制作されたわけですね。

●小谷:マネージャーにお尻を叩かれて着手しました(笑)。なぜ今?っていう一番の理由はオリジナルアルバムからの逆算です。詩集の先にオリジナルアルバムがあるという。この詩集は前半がまだ曲になってない詩がほとんどで、後半がすでにリリースされてる曲の歌詞なんですけど。まだ曲になってない詩を先に見てもらう、それが一番の目的なんです。

──通常とは逆の順番で歌詞を目にすることになる?

●小谷:そうなんです。曲がつくかもしれないし、つかないかもしれない、それはわからないけど、その先にアルバムがある、曲が待ってるということを想像しながら見てもらう。実際、前半の詩のなかには、すでにライブで披露してる曲もあるので、お客さんとしてはライブでなんとなく聞き覚えていた歌詞も確認できるし(笑)、メロディーがつく前の詩だけの状態のものを先に見ることもできる。

──とはいえ前半の詩がすべて曲になるとは限らない。

●小谷:限らない。このあと出るアルバムのときには曲がつかなかった詩も、次のアルバムのときに曲になって収録されるかもしれないし、ずっと詩のままかもしれないし。どうなるのかわからない状態で読んでもらおうと。

──楽曲としてまだリリースされていない18編の詩のうち、曲がついているのは何編あるのですか。

●小谷:『衣更え』『忘れ日和』『終戦の船出』は曲がついてて、3曲ともライブでやってます。できたらすぐ歌う(笑)。でも『終戦の船出』は1回か2回しか歌ってないですね。『衣更え』も秋しか歌わないんで、あんまり歌ってないかな。どうしてもライブのメニューは季節で選んじゃうんで。『忘れ日和』はコアなお客さんは絶対知ってるくらいやってますね。

──『衣更え』のラスト、すごく好きです。

●小谷:……なんでしたっけ? 私、歌詞を全然覚えないんですよ。

──「忘れる日が いつか来るのかな 来るよね」です。この「来るよね」がいいなぁと。

●小谷:うんうん、そこね、考えました。

──考えたけど忘れた(笑)。

●小谷:忘れます、もう全然(笑)。でも「来るのかな」だと、あんまり来ない感じだから、「来るよね」にしてちょっと前向きな一面も見せつつですね。

──来て欲しいっていう願望も感じますよね。

●小谷:そうそうそうそう。

──思ってました? 本当に?(笑)

●小谷:思ってる思ってる。でもねー、今言われるまで忘れてた(笑)。なんか歌詞を書いてるときの人格と、そこから離れてるときの人格がかなり違ってて。歌詞を書いたりライブをしてないときは、あまりにも気が抜けすぎてるんですよ。だからインタビューで、「どういうことから、こうなったんですか?」とか聞かれても、ほぼ覚えてなくて。書いてるときはもちろんいろいろ考えてるけど、書き終わると、もう本当に忘れる。

──あまりに集中して考えたり書いたりすると、覚える気がなくても覚えちゃったりしませんか。脳にプリントされちゃうみたいな。

●小谷:ないですね。終わると客観的になるんですよね。ライブのときや書いてるときは全然客観的ではないんですけど、何もしてないときは客観的になるから。だから昔の歌詞を見ても「うわ~、すごいこと言ってらっしゃる」みたいな他人事な感じ(笑)。

──歌うときもそうですか。歌いながら「あら~、すごいこと歌ってらっしゃる」と思うとか。

●小谷:思います。「いい曲だな」とか、「あぁ強烈なことを言ってらっしゃるな」と思うんですけど、歌いだすと照れがなくなるので。

──歌いはじめは照れがあるのですか。

●小谷:ありますね。歌の世界に入っちゃえば大丈夫なんですけど。基本、普段は何事に対しても照れがありますね。

──だとしたら感情を吐露したような歌詞を歌ってないときに見たら、「あらま……」って、ちょっと恥ずかしくなる?

●小谷:かなり照れますね。もちろんすごい根暗なとこや激しい凶暴な感情も持ってるんですけど、普段はオブラートに包んで、はぐらかしていたいと思うんで。明るく楽しく、みんなと仲よく過ごすのが一番重要なことなので。そこでわざわざ重たい本当の気持ちみたいなものを出したいとは思わないんですよね。でも持ってる気持ちではあるので、それは音楽でなら照れなく表現できる。

──歌詞を書いているときは重たいことを言いたい人格が前面に出てきている、ということですか。

●小谷:そうですそうです。歌詞によっても違うんですけどね。おっさんが怒ってるような歌詞は、わりと普段の感じ。そういうことは普段から言ってるので。今回のまだ曲になってない詩で言うと、おっさん系は『パラダイムシフト』とか『償い税』とか。『風を燃やして』になると、だんだん根暗な美紗子ちゃんが「またまたそんなこと言っちゃって」みたいな、はぐらかしたくなるようなことを言い出しますけど(笑)。でもそれが本当だっていうのも自分ではわかってるんですよ。それが私の本当に思ってることなんだって。

──それでバランスをとってるのかもしれませんね。

●小谷:たぶんそうですね。重たいことも言うのも気が引けるけど、重たいものを出す場がないのも辛いから。だから元気になるんですよ、歌詞を書くと。いつもそうですね、書いたら元気になる。

──暗い歌詞でも。

●小谷:すごい元気になる。言ってやったわー!みたいな。

──だったら書かない時間が続くと気持ちがモヤモヤしてきます?

●小谷:というか、そもそもモヤモヤがないから、書くっていうことを必要としてないのかもしれない。

──そういうこと、あります?

●小谷:ありますよ。『青さ』という曲の歌詞は親友に書いたものなんですけど。親友には重たい自分も、はぐらかしたい照れやの自分も、どっちも見せられるので。すごい幸せな時間が過ごせるんですね。だから親友とずっと一緒にいたら、のほほんと生きてられるかも。歌なんかいらな~いって言ってるかもしれないです(笑)。

小谷美紗子「PARADIGM SHIFT」

◾︎仕様:B6 / 上製本 / オールカラー / 72ページ
◾︎新旧含む 38編収録
◾︎価格:¥3,000(tax in)
https://musicforlife.shop-pro.jp/?pid=138911201
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