『ピテカントロプスになる日 Vol.5 Ramblin’ On Your Dream ~僕らの時代の落としもの~』Special Talk 蒼山幸子(ねごと)×松本明人(真空ホロウ)×柳原陽一郎

バンドメンバーの音楽の好みがバラバラだからこそ“がっちゃんこしたときに面白いものができたらいい”と言う蒼山幸子(ねごと)。音楽的にとんでもなく雑食、いい意味で“とりとめがなく、ひとりぼっち”であるとも言える松本明人(真空ホロウ)。かつて個性もバラバラなメンバーで構成された“たま”に在籍した、音楽的雑食種の柳原陽一郎。そんな、スタイルやジャンルにとらわれずに我が道を行く3人が同じステージに立つのだから、何が起きても不思議はない。セッションも重要ポイントである“ピテカントロプスになる日”、その行方はいかに!というわけで、すでに大いに盛りあがったトークセッション。枠を大きくはずれた“番外編”まで、とくとお楽しみください。


「高校では絶対に軽音部に入ろうと思って。でも入ってみたら軽音部は、部活カーストの最下層でした(笑)」(蒼山)


●蒼山:私が柳原さんの曲を初めて聴いたのは、たしか小学生の頃で。名曲をテレビで紹介する番組で『さよなら人類』を聴いたのが最初なんです。子どもながらすごい衝撃を受けて「この曲好き! 気になる~」って思った覚えがあります。

●松本:僕は3歳の頃、リアルタイムで紅白歌合戦も見ました。うちは両親とも音楽が好きで、いろんな音楽が流れてる家庭だったんですけど、やっぱり『さよなら人類』は衝撃的でした。

●柳原:ご両親は、どんな音楽を聴いていたんですか。

●松本:家にレコードがいっぱいあって、フォーククルセダーズとかテンプーズとか黛ジュンさんとか佐良直美さんとか。なので僕もそういうのを聴いて育ちました。

●柳原:ど真ん中ですね、歌謡曲の。いいなぁ。ご両親は音楽をやっていたりもした?

●松本:お母さんがブラスバンドでトロンボーンをやってて、お父さんはクラシックギターをやってました。あとお父さんはGSも歌ったりしてましたね。

●柳原:GSを歌う?グループサウンズの曲を?

●松本:歌が聞こえてくるんですよ。

●柳原:ギターを弾いて?

●松本:いや、生です、歌だけ。

●柳原:アカペラでショーケン(テンプターズの萩原健一)みたいな。

●松本:そうです、そんな感じです。

●柳原:蒼山さんのご両親も音楽は好きでした?

●蒼山:好きですね。両親ともに好きなのは井上陽水さんで、「ドライブに行くよー」ってなると、車の中では井上陽水さんのアルバムが流れてる感じでした。すごく詳しいわけではないですけど、両親とも人並みにビートルズを聴いたり。でも母は打楽器をやってました、マーチング系のスネアとか。

●柳原:ってことは蒼山さんのお母さんもブラスバンド系。

●蒼山:そうですね。

●柳原:ブラバンつながりとも言えますね。

●蒼山:そういうことになりますね(笑)。

●柳原:そういう環境だと、お2人とも、小さい頃から何か楽器とかやったりしてたんじゃないですか。

●蒼山:家にピアノがあって。なんか子どもにはピアノを習わせたかったみたいで。

●松本:僕の家にも、僕が生まれたときからピアノがありました。だから兄も僕もピアノはやっていて、3~4歳くらいからクラシックピアノを習い始めて。でも僕にとっての音楽の始まりは、ビー玉をクラシックギターのネックに落として転がして、サウンドホールに落っこちたら負けっていう遊びですね。

●柳原:ははははっ。それ、Eテレっぽい。でもお2人ともピアノをやってたわけですね、……困っちゃったな。

●蒼山:でもピアノは習ってるときはあんまり好きじゃなくて。性格がマメじゃないので、基礎練習みたいなことが好きになれなかったんですけど。中学になって自分の好きな曲をコードで弾くようになってからは、楽しいと思うようになりました。

●柳原:歌うときは基本、キーボードを弾きながらですよね?

●蒼山:そうです。ただ最近、ねごとの音楽は打ち込み要素も増えてきているので、ハンドマイクで歌うときもあるんですけど、基本的には鍵盤ボーカルです。ただ、コードを弾くっていうよりは、リズムっぽいフレーズを弾くことが多かったりします。

●柳原:鍵盤楽器の弾き語りっぽいのとリズムっぽい伴奏って、すごく断絶がありますよね。僕は結局、弾き語りっぽいピアノしかできないですもん。リズムっぽいピアノは、もう無理無理。

●蒼山:断絶……、たしかにそうかもしれない。

●柳原:決まったフレーズを弾くピアノだと、なんか物足りないなって思うこと、ありません? なんか自分が一つのパーツになっちゃってるみたいで寂しいとか、そういうことはないですか? すごくテクニカルな話ですけど。

●蒼山:ねごとは鍵盤の立ち位置が、最初からコードを弾くというよりフレーズを弾く感じだったので。また私もコードを弾きながら、いわゆる弾き語りっぽく歌うのがあまり得意じゃなかったんですね。実は私、最初にバンド組んだときはドラムだったんですよ。

●柳原:ほう! お母さん譲り。

●蒼山:そう、お母さんの血が(笑)。だからですかね、ちょっとリズム感のあるフレーズを弾いてるほうが歌いやすくて。

●柳原:リズムが♪ピロピロピロピロポ~ンみたいなほうがフィットする感じだったんだね。

●蒼山:はい。なので逆にとても憧れます、柳原さんのピアノに。すごくお上手ですよね。

●柳原:そんなことないです! 全然です! お2人ともピアノをやってたって聞いた時点で、もうドン引きですからね。ヤバいヤバいヤバいって。そもそも僕はピアノを習ったことないし。

●蒼山松本:え──────っ!!

●柳原:1回もないです。たまというバンドを始めたときに鍵盤の人間がいなかったので。「じゃ、私、します」と言ったのが始まり。

●蒼山:えっ!? それはビックリです。

●松本:それでできちゃうんだ。
●柳原:最初は右手だけでカシオトーンを弾いて。『さよなら人類』って曲を作ったときも、「これ、ピアノじゃないとまずいんじゃないの?」って感じで。もうお恥ずかしい話で、それで生き延びてるっていう。

●蒼山:基礎をやった方の鍵盤に見えてました。

●柳原:もうヤメて(苦笑)。話、変えていいですか? お2人とも最初からバンドで活動していたんですか。

●蒼山:中学くらいから音楽をやりたいと思うようになって。でもソロでやるのはイメージできなくて、曲を作って音を鳴らすバンドがいいなって思ったんです。ただ中学には軽音部がなかったんで、高校は絶対に軽音部があるところに行こうと思って。

●柳原:バンドがやれるかどうかが、高校を決めるポイント。

●蒼山:それだけで選びました。でも入ってみたら軽音部は部活カーストの最下層だったんです(笑)。

●松本:・柳原:あははははは。

●蒼山:運動部がすごい高校だったので、軽音部はプレハブが部室ような感じで。だから野放しというか、何をやってもよかったというか。

●柳原:そこでさっそくバンドを組むことに?

●蒼山:はい。軽音部に入ってバンドを組んで。一つのバンドではドラムをやってたんですけど、ボーカルをやりたい気持ちもあったので、もう一つバンドをかけ持ちすることにしたんです。で、そっちのバンドでドラムをやってたのが、“ねごと”のドラムだったりするんです。

●柳原:すごいね、ビートルズ誕生みたいだね。それで指導は誰がするの?

●蒼山:そういう人はいないので……。先輩ですかね。でも技術的な指導はしてくれないんで。

●柳原:技術ではない……。「気合入れろ!」とか、言うの?

●松本:あっはははは。それ、いいですね。

●蒼山:いや、CDを貸してくれたり、スコアみたいなのを使わせてくれたり。使いたいものがあったらコピーしていいよみたいな。その頃はアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)とかやるバンドが多かったですね。私は銀杏BOYZとかをやってました。

●柳原:それで文化祭がハレの場?

●蒼山:そうです。教室の電灯に色のついたセロファンを張って、付けたり消したりパチパチやって。

●柳原:ステージに出てない人が照明係。

●松本:すごい!

●柳原:いい話だなぁ。そこでお客さんが入って、「アンコール!」なんて言われると感動しちゃって。

●蒼山:しちゃいますね、しちゃいましたね(笑)。

「高校3年の文化祭で、リクエストされた曲を弾き語りで歌うっていう、僕だけの教室を先生が作ってくれました(笑)」(松本)


●柳原:松本さんはどうですか、文化祭事情は。

●松本:実は僕、ずっと1人で弾き語りをやってて。

●柳原:あれれれ、バンドじゃないんだ。

●松本:そうなんです。中学生の頃から路上で歌ったり。幼稚園の卒園文集に「歌手か声優になる」って書いて、それを叶えるための日々みたいな。

●柳原:特訓をしたっていうこと?

●松本:田舎だったんで大声で歌ってただけですけど(笑)。あとはテープに自分の声を録音して聴いてみたりしてましたね。でもたまたま住んでた町に大きい湖があったんで、9歳からヨットも始めたんです。

●柳原:えっ? 何? ……ヨット?!

●松本:帆を張って舵をとって。1人乗りのヨットで。

●柳原:わぉ!

●松本:それでたまたま世界大会とかに出たりしたんで、ヨット推薦で行ける高校に進学するか、自分のやりたい音楽をやるかで考えて、音楽を選んだっていう。

●柳原:推薦は? 蹴っちゃったの?

●松本:はい、音楽をやろうと思って。そこからずーっと弾き語りをするようになって。で、高校1年のとき、文化祭に出るためだけのバンドにボーカルで誘われたんですけど、全然気が合わなくて。そのときはオリジナルをやりたいみたいな意思があったんですけど、メンバーはどうしてもコピーがやりたい、175ライダーをやりたいって感じだったので。

●柳原:歌ったの? 175ライダーの歌を。

●松本:歌いました。でも文化祭は隔年の開催だったんで2年生のときは文化祭がなくて、3年の文化祭のときは誰もバンドをやらなくなってたんで。

●柳原:それいいな、「誰もバンドをやらなくなった」。ミステリーにありそうだよね(笑)。

●松本:ありそう。ありそう(笑)。そしたら先生が文化祭で、僕だけの教室を作ってくれたんです。誰かが来たらリクエストされた曲を歌本とか見ながら弾き語りで歌うっていう。

●柳原:松本さんの小部屋みたいな。

●松本:そうです、1日そこにいて誰か来るのを待って歌う。

●蒼山:鍛えられそうですねぇ。

●松本:そうそう。よく知らない曲も、どうにかやらなきゃいけないから(笑)。

●柳原:CDを聴いた松本さんの印象からすると、すごく耽美的なロックというか、盛り上がり系ロックなのかなと思ったんですけど。もともとは弾き語りなんだ。

●松本:僕はずーっとそうです。でも、これはどうしても歪んだ音でやりたい、ノイズを出したいっていうところをバンドでやって昇華してる感じなんだと思います。だから真空ホロウを始めたときも、バンドで違う音を鳴らしたいっていうことから始まったのでバンドプロジェクトの形にしたんです。

●柳原:自分1人しかいないけど、頭の中にはノイジーな音もあったりするから。

●松本:そうですね。で、そこからメンバーが変わって変わって、今は3人に落ち着いてるんですけど。

●柳原:もともとひとりぼっちなんだね、いい意味で。でもそれちょっとわかる。僕もどちらかというと、そっちのタイプだから。僕も文化祭で1人で歌ったりしましたね。

●松本:その当時は、どういう曲を?

●柳原:いやいやいやいや、それは聞かないで。

●蒼山松本:え──。

●柳原:だよね(笑)、話してもらったんだから話さないとだよね。似てます。歌本を10冊くらい置いておいて、リクエストにお答えして吉田拓郎さんやらアリスやら松山千春さんやらを歌って……という感じでしたね。

●松本:ちょっと嬉しいです。近しい感じがして。

●柳原:僕も頭の中に鳴らしたい音があったんですよ。ジョン・レノンが好きだったんですけど、どうも普通に音楽やってるドラムの人とかベースの人とかに、その気持ちが伝わらなくて。それでちょっと悩みましたね。

●蒼山:伝わらない?

●柳原:その当時はハードロック系の手数の多いドラマーが多かったし、そういうのがカッコよかったんですよね。そしてギターはレッドツェッペリンじゃないけど、ディストーションをかけてガガーンと弾くのが主流で。でもそういう人たちとバンドを組んでもなぁ……、歌をおざなりにされてるような気がするなぁ……って。とにかくロックは音圧っていうのが、まだ世の中を覆ってて。

●松本:そうだったんですか。

●柳原:そういうロックか、さだまさしさんか。真ん中がない世の中で。そういうなかで真ん中がすごく好きだった僕は、もうヤケになってしまって、この有様(笑)。

●蒼山:選択肢があまりなかった。

●柳原:そうそう。音楽の選択肢が広がったのはCDが登場して以降だから。タワーレコードができて、六本木にWAVEができて、ボサもジャズもロックも世界中の音楽が平等に入ってきて。ロックひとつとっても、いろんな種類ができて。そこからですよ、楽になったのは。でも楽になったときは、たまというバンドを始めていたので、逆にやれる音楽の選択肢がなくなってた(笑)。

●蒼山松本:あははははは。

●柳原:ランニング姿でボサやってもね(笑)。すみません、なんか思い出話をしてしまいました。僕、本当に雑食だったんですよ。よくわからないラッパのおじさんが30分くらい吹きっぱなしのフリージャズを聴いたかと思えば、ユーミンを聴いたりするタイプだったので。若い頃は自分が全くまとまらなかったですね。そのとっちらかった状態をなんとか歌詞にして、1人で始めたっていう感じですね、本当にとっちらかってました。

●蒼山:でもカテゴライズできない感じがありますよね、柳原さんの音楽って。柳原さんっていうジャンルみたいなイメージが。

●松本:うん、そうそう。

●柳原:………う~ん、そうですか。いやいや、あの嬉しいような……。あのね、褒められ下手なんですよ。それね、うちの家系なんです。

●蒼山:家系なんですか(笑)。

●柳原:今もそうなんですけど、褒められると「そんなことないよ」って言っちゃうタイプなんですよ。

●松本:あ~~~わかる、わかる。

●柳原:そういう親父を見てて、すごく嫌なので。できるだけ嬉しい顔をしようと思うんですけど。

●蒼山松本:あはははは。

●柳原:なっかなかできないっていう。「ありがとー!!」って言えればいいのに。ごめんなさいね、ありがとうございます。

●蒼山:こちらこそ、なんかすみません。

●柳原:損しますからね、皆さん、褒められ上手になってくださいよ(笑)。

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