『ピテカントロプスになる日 Vol.5 Ramblin’ On Your Dream ~僕らの時代の落としもの~』Special Talk 蒼山幸子(ねごと)×松本明人(真空ホロウ)×柳原陽一郎

「『さよなら人類』を聴いて“ついたー!”をマネした? じゃ、今回ぜひやっていただきましょうか(笑)」(柳原)


●松本:僕も雑食でした。初めて行ったコンサートは榊原郁恵さんで、クラシックも聴けばノイズミュージックも聴いてたし。ファンクラブに入ったことがあるのはTHE BACK HORNっていうバンドと、ゆずとPerfume。でも荒井由美さんの時代から松任谷由実さんは好きで、ライブでカバーもしてて。で、今でも海外からレコードを取り寄せたりするのは、池田亮司さんっていう現代音楽の人だったり。

●柳原:どこに住んでる人なの?

●松本:パリです。恒星周期を音にするっていうアルバムを、星の枚数分LPで作ってボックスで出したりしてる方で。その方の初めての日本での展示を現代美術館に見に行ったとき、真っ白い部屋に、とんでもなく大きい真っ黒いスピーカーが7台置いてあって。遠くに引いてある線まで歩いて来てくださいって言われるんです。それで無音のなかを言われたところまで歩いて行くと、着いた瞬間に耳鳴りがするっていう。音楽の自由さをそこで知って。ほんと表現の仕方は自由でいいんだなと思って好きになって、どハマりして。

●柳原:松本さんは、いい意味でとりとめがないんだね。

●松本:そうです、そうだと嬉しい。でもごちゃごちゃとも言われますね(笑)。今は真空ホロウのとしてのやりたいことは、きちっとあるんですけど。

●柳原:真空ホロウと松本明人っていうのは、松本さんのなかで分かれているんですか?

●松本:僕、表裏とか明暗とか陰翳礼讃とかが好きで。だから真空ホロウさんと松本明人くんも分けてるのかもしれない。

●柳原:別人格というわけでもない?

●松本:別人格なのかはわからないですけど、真空ホロウになって、そこに出てくる登場人物を演じるのは好きです。なんだろ、時々泣いちゃったりするくらいの感じだったりもします。

●柳原:完璧に演じ切ってるから。

●松本:そうだと思います。

●柳原:蒼山さんは? これにハマったみたいなことで言うと。

●蒼山:最初はスピッツとかにすごいハマった時期があって……。私もユーミンは大好きで、言葉と歌が立体的な人がすごく好きなんですね。でも“ねごと”って音楽の趣味がバラバラな4人が集まってるバンドで、それがガールズバンドゆえの良さなのかもしれないですけど。「別に一緒じゃなくてもいいじゃん、がっちゃんこしたときに面白いものが作れたらいいじゃん」っていう感じでバンドを始めたので。「こうなれたらいいね」みたいなことも、あんまりなくて。

●柳原:わかるわかる、一緒じゃなくてもいいよね。

●蒼山:ただ音楽のどこが好きなんだろうって考えたことがあって。そのとき、音楽には何かのムードとか思想とかが表れているから、そこに魅力を感じるんだろうし、だからこそ、作った音楽と一体になってるアーチストに惹かれるんだろうなって思ったんですね。それを自分が作るものでも毎回探しながらやってるような気がしてます。

●柳原:あるんじゃなくて、探す感じね。

●蒼山:そうですね。だから、できてからわかることが多いです。「今、自分はこういう状態なんだ」「こういうことを歌いたかったんだ」って。それが面白くもあり難しいところでもありますね。

●柳原:曲作りで決まった方法みたいなことってあるんですか? こうやると一番近道でいいよ、みたいな。

●蒼山:うちのバンドはみんなが曲を作るので。どこから始めるかはいろいろなんですけど。例えばトラックが先にできた曲は、それがデータで送られてきて、それぞれがメロディーをつけてみたり。

●松本:バンド内のコンペってこと?

●蒼山:ということもあります。私はわりとメロディーも歌詞も自分で作って、それにトラックをつけてもらうことが多いんですけど。

●柳原:そうやってできた曲をレコーディングしましょうとなると、そのトラックは活かしなの?

●蒼山:実際ちゃんと演奏できるのかどうかは、やってみないとわからないので。1回スタジオに入って演奏して。例えばドラムならキックは打ち込みと生を混ぜたほうがいいね、スネアは生にしようとか、打ち込みと生演奏の住み分けを考える作業をやって。だから結構手間がかかってますね。ただそのやり方だと、とっちらかりやすいんですよね。いろんなアイデアがありすぎて迷うというか。

●柳原:無限だからね、アイデアは。宇宙のなかでやってるようなもんだもんね。松本さんも、そんな感じ?

●松本:僕は完璧に出来上がったものを、みんなに提示します。ドラムも何もかも自分で作った音源10曲、15曲をバンドメンバーと制作チームに聴いてもらって。今の真空ホロウは何を表現するか会議を開いて、「これは違う」「これはノーコメント」って眼の前でやってもらうっていう。

●柳原:厳しいミーティングがあるんだ。

●松本:あっはは。僕はそれを静かに待つ。

●柳原:そこで「絶対、これいいから。今はダサいけど、絶対よくなるから」みたいなことはないの?

●松本:僕、みんなカッコいいと思ってやってるから。

●柳原:そあ~カッコいいね、それ。プロっぽい! プロっぽいや。

●松本:自分の部屋で1人で作った曲で、そういう1人コンペみたいなのをやって。

●柳原:健康、大丈夫ですか。僕は人に任せるとこも多いんだけど。自分で全部作り込む人だと、脳みそがずっと回ってるような感じになって、精神的なことも含めて健康を損なう人が多いみたいで。

●松本:それはメンバーにもチームのクルーにも、すごく心配されて。時間割を作るようにしました。一応、朝は何時に起きて。何時から何をして、作業は何時までにするとか。

●柳原:ヨットに乗るとかも入れたほうがいいと思うよ。

●蒼山:あはははは。

●松本:山とか海とか「自然を見たほうがいい」って言われます。部屋のなかだけにいたんじゃ、曲なんてできないからって。

●柳原:それもあるだろうけど体に悪いんだよね、1人で完結できる人って。でもわかる、頭の中にすべてある人は、なかなか人に任せられないんだよね。だから時間割はいいと思うよ(笑)。その時間割、ものすごく細かかったりするの? 今日は何食べてとか。

●松本:僕、1人で食べるときは食事の内容にも味にも全く興味がないので。わりと肝臓豚ホルモンとか食べてます。

●蒼山柳原:えっ? 肝臓? 豚ホルモン……?

●柳原:やばいバンド名みたいだね(笑)。

●松本:イカ天に出てきそう(笑)。肝臓豚ホルモンって、ビーフジャーキー的なおつまみみたいなもので。それとモンスターっていう栄養ドリンクですませちゃったり。

●蒼山:確かに健康が心配。

●松本:気をつけます、ありがとうございます。……あの、全然話が変わっちゃうんですけど、僕、今回のイベント、本当に楽しみで。

●蒼山:そうなんです、私もです。

●柳原:私もです。

●松本:まさか一緒にライブができるとは!っていう。ホントに衝撃的だったんです、3歳のときに『さよなら人類』を聴いて。「ついたー!」とか、さんざんマネしてましたから。

●柳原:『さよなら人類』は全員で演奏することになってるので、じゃ、今回ぜひやっていただきましょうか(笑)。

●松本:わかりました。タンクトップにはなれないですけど。

●柳原:あれはランニング。タンクトップとか、そんな粋なものではありません。フッフフフ。僕自身、このライブでのセッションは、毎回すごく楽しみにしてて。松本さんは『牛小屋』と『オリオンビールの唄』、蒼山さんは『満月小唄』と『どんぶらこ』をやりたいとのことで。

●松本:はい。『牛小屋』は初めて聴いたときに「ヤバい」と思った曲なので。

●柳原:たしかにある意味ヤバい、あれは(笑)。で、お2人の曲にも僕が参加させていただきたいんですけど。「この曲、ちょっと柳原に何かやってもらいたい」っていうのを言っていただけたら、アコーディオンかピアノかアコギかエレキかで微力ながらやらせていただきますので。

●松本:……いいんですか?

●蒼山:……ホントですか?

●柳原:いいんです。ホントです。

●蒼山:ヤバい、考えます。

●柳原:私が何かやれる曲を2曲くらい言ってください。いや~、今回も楽しみ楽しみ。

番外編 酒と食と頼れる女


●柳原:松本さん、実家が酒屋さんなんでしょ? お父さんはお酒を飲む人なの?

●松本:下戸です。

●柳原:そうだって言うよね。酒屋の主人は下戸が多いって。その話、2~3回聞いたことがある。

●松本:祖父母は飲むんですけど、お母さんも兄も飲まないです。お父さんは「お酒は売るものだ」って言ってます。

●蒼山:あ~、売るもので飲むものじゃない。

●柳原:立派! できないよね、お酒飲んだら酒屋なんて。松本さんは? 飲む?

●松本:僕は好きなんです。だから、おじいちゃんのほう。

●柳原:じゃあ、家に帰ったらもう大変。

●松本:飲まない日のほうがない。試飲してくれって言われたり。

●柳原:蒼山さんは熱燗が好きだという情報がありますが。

●蒼山:恥ずかしい(笑)。日本酒がすごく好きなんです。だから松本さんが単純に羨ましいっていう。

●柳原:ナントカサワーとかカクテル系じゃないんですね。

●蒼山:そうですね、日本酒が一番好きですね。

●柳原:頼もしいですねぇ、これからの日本酒界。

●松本:日本酒なら新潟の青山酒造っていうところの「鶴齢」と「雪男」がとても美味しいですよね。

●蒼山:あ、知ってます!

●柳原:「鶴齢」って美味しいんだ。今度飲んでみよう。

●蒼山:お酒は飲まれますか?

●柳原:はい、あの、飲みましたっていう感じですね。もうね、そろそろいいでしょっていうね。何をやってるんだ、この短い人生の中でっていう後悔もちょっとありつつ。

●蒼山松本:あははははは。

●柳原:でも旅に出て、お酒が好きな人は、なぎら健壱さんじゃないけどダラッとこう暖簾を開けてね、「いやっ、どーも」とか言いながら1人で飲みに行くじゃないですか。あれはできないです。スナックとか、1回も行ったことないです。ちょっとビビりなとこがあって。

●蒼山:へぇ~~、そうなんですか。

●松本:僕も1人で外食できないです。

●柳原:松屋とか、そういうとこでも?

●松本:行けないです。

●蒼山:えっ……。え~~~、そうなんですか。

●松本:僕、誰かと感動を分かち合わない食事って、単に食べているという行為にしか過ぎないと思ってしまうんですよ……。

●蒼山柳原:あ~………。

●松本:「美味しいよね」って言う相手がいないと。ただの行為としか思えないんで、なんでもよくなっちゃう。

●柳原:1人で食べて「美味しいな~」っていうのはないの?

●松本:それだと虚しくならないですか?

●柳原:だって1人で音楽聴いて「あぁいいな~、このベース、このドラム」とか、あるじゃないですか。それと同じように「このうどん、コシあるわ~」みたいなのはない?

●松本:それよりも違うことを考えてるかもしれないです。

●柳原:別のことを考えてる?「寂しいな」とか?

●松本:究極そうかもしれない。

●柳原:実存的なことを考えてるんだ。

●蒼山:はぁ~、なるほど。

●柳原:1人でご飯を食べると、そこに思考がクローズアップされちゃうんだ。

●松本:例えば1人で食べてる人を見たら「なんでこの人は1人で食べに来たんだろう」っていうふうに思っちゃうんです。で、自分もそうじゃないかってことになって、虚しくなる。

●柳原:そこで虚しくなるんじゃなくて、「みんな寂しいよな。そりゃ」とかって嬉しくなるとか。そういうこともないんだよね?

●蒼山:あはははは。

●松本:ないです。

●柳原:後ろ向きだなぁ。

●一同:あっはははは!(爆笑)

●柳原:蒼山さんは1人で食べられますか?

●蒼山:今ので言うと、「1人で来てるなぁ」と思われちゃうタイプだと思います。

●松本:1人で食べられる?

●蒼山:食べられますね。

●柳原:1人で飲みにいけます?

●蒼山:お店を選びますけど、行きます、1人でも。

●柳原:バーとかいける?

●蒼山:行けます。

●柳原:すごいなぁ。

●蒼山:ただ見た目で下手したら未成年に思われるときがあって。なので行きつけのお店とかで様子を伺いながら飲んでます(笑)。いきなり日本酒とかを頼むと、隣に座ってるご夫婦にギョッとされたりするので、「大丈夫かなぁ?」って思いながら頼んでしまう、ちょっとビビりなところはあるんですけど。でも1人はわりとなんでも大丈夫です、1人旅も全然平気ですし。

●柳原:頼もしいね。でも今の話を総合すると、蒼山さんが一番タフですね。僕ら2人は蒼山さんについていけばいいや(笑)。

●松本:ホントだ。ついていきましょう(笑)。

●柳原:ところで最後になんですけど、僕はちょうど今、レコーディングが終わって空っぽになっちゃってるんだけど。目の前の目標が何もないというか。でね、お2人に目標があったら聞かせてもらって参考にさせていただきたいんですけど。

●松本:僕の第1目標は“紅白”なんですけど。その前に『みんなのうた』をやりたいんです。それが今の明確な目標ですね。だから最近は毎日、『みんなのうた』のことを考えてます。

●柳原:『みんなのうた』かぁ。

●松本:もともとあの番組が好きで。童謡も好きだし、そういう歌を鼻歌でも歌ってて。一番よく歌うのは『にんげんっていいな』。♪くまの子みていた かくれんぼ~ お尻を出した子 一等賞~ 夕焼けこやけで また明日~ ま~た明日~。(←歌う)

●松本柳原:♪いいな いいな にんげんって いいな~。(←一緒に歌う)

●柳原:世代だな。僕は『北風小僧の寒太郎』だもんな(笑)。

●松本:いや、それもいい曲ですよ。

●柳原:歌ってるのマチャアキ(堺正章)だしね。

●松本:マチャアキなんだ、あれ。初めて知った。

●柳原:で、蒼山さんはどうです? 目標とか。

●蒼山:私は今やってるバンドで走れるとこまで走りたい、っていうのが目標かもしれないです。女子バンドなんで、みんなが音楽をできるところまで、それがいつかはわからないんですけど、そこまでやりたいなって。あとは……自分たちらしいっていうか、“ねごと”しかできないことをやり続けたいなぁっていうのが間近の目標ですね。もちろんもっといろんな人に聴いてほしいっていう野望もありつつ、本当にやりたいことを積み重ねていって、それが野望と重なる瞬間があったらいいなって思ってるんで。

●柳原:そうだよねぇ……。ほんとにそうだ。

●蒼山:そのうち現実問題として、メンバーの誰かが音楽をやれないことになるかもしれないですし。例えば子どもができたり。

●柳原:あ~~、そうだ。そうだよね、そういうこともあるよね。

●蒼山:4人がリレーみたいに子どもを持ったら、ちょっと大変だし。じゃ一緒に産みますかっていうのもね(笑)。

●柳原:それも怖い(笑)。

●蒼山:だからいろいろ考えてしまうこともあって。でもだからこそ、いつかはわからないその時まで、自分たちらしく走りたいなって。

●松本:素晴らしい!

●柳原:ホントだよ。やっぱり一番タフだと思います、蒼山さんが。松本さん、ついていきましょ(笑)。

●松本:僕もそう思いました(笑)。


『ピテカントロプスになる日 Vol.5 Ramblin’ On Your Dream ~僕らの時代の落としもの~』

■出演:柳原陽一郎 / 松本明人(真空ホロウ) / 蒼山幸子(ねごと)
■開催日程
 2018年11月22日(木)
 18:30 OPEN / 19:00 START
■チケット料金
 ●ADV ¥3,800/DOOR ¥4,300
 ※ドリンク代別途必要
■開催場所
 duo MUSIC EXCHANGE

 東京都渋谷区道玄坂2-14-8 O-EASTビル1F
 ●duo MUSIC EXCHANGE Webサイト:http://www.duomusicexchange.com
■主催:MUSIC for LIFE
■企画・制作:SWEETS DELI RECORDS / MUSIC for LIFE
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