「バンドをしてるからバンドマン、それが一番しっくりきます」(奇妙)
●柳原:奇妙さんは自分の職業を聞かれたとき、なんて答えるんですか? ロックシンガー?
●奇妙:バンドマンって答えてます。なんかミュージシャンっていうほど音楽的な教育も受けてないし。コード見て弾かなあかんみたいな感じなんで、よくわかってないんですよ。かといってシンガーソングライターっていうほどの曲も作ってないし。歌手っていうほど歌が上手でもないし。バンドをしてるからバンドマン、それが一番しっくりきます。
●柳原:じゃバンドじゃないとダメなの?
●奇妙:そうですね。バンドマンの人がヒマなときに弾き語りしてるっていう。
●柳原:それが奇妙礼太郎。だったら、ミック・ジャガーのようにパーマネントなバンドができれば、そのほうが楽ですか?
●奇妙:そうですね、いいですね。今ちょっとそういうふうにしていこうかな、って思ってるところなんですけど。
●柳原:そのときは奇妙礼太郎っていう名前じゃない別の名前になるのかな。それとも奇妙礼太郎となんとかになるのかな。
●奇妙:奇妙礼太郎でやろうかなと。
●柳原:奇妙礼太郎がバンドの名前なんだ。
●奇妙:それがいいかもって思ってますね。
●柳原:そもそもいつから奇妙礼太郎という名前なんですか?
●奇妙:アニメーションズっていうバンドをやり始めたときからです。なんか日本人の名前で、チラシとかで目にしたときに一回くらい見てみたいと思うような名前がいいと思って。まぁでもどう考えても(忌野)清志郎さんのマネって感じしますけどね(笑)。
●柳原:今もいくつか平行してバンドをやってますよね。それは奇妙さんのなかで役割が違うバンドなんですか?
●奇妙:違いますね。天才バンドは、Sundayカミデさんっていう人とやってるんですけど。その人がとにかく面白くて週一回くらいは会って喋りたいんですね、だったら一緒に仕事するしかないなぁって。バンドとかやったら一緒にいる時間も必然的に増える、みたいな。音楽的にはバンド自体がコミュニケーションするのが楽しいって感じですね。奇妙礼太郎トラベルスイング楽団は今はやってないんですけど、けっこう大所帯のバンドで。とりあえずステージの上に人がいっぱいおったら、見にくるんちゃうかなって、そういうよこしまな気持ちで始めた感じですね。あとアニメーションズも細々とやってます。1stアルバムを出してから曲も増やさず10年以上やってるんですけど。年に3回くらい誰か呼んでくれるんで、同窓会みたいな感じでやってて。25分ライブして終わり(笑)。これも年に何回か顔見たいからやってる感じですね。
●柳原:それにしても新しいアルバム『YOU ARE SEXY』、いいですねぇ。
●奇妙:ありがとうございます。
●柳原:すごく面白いピアノだと思ったんですが、あれはどなたが弾いていらっしゃるんですか。
●奇妙:バンドメンバーの中込陽大くんっていう人が。あれ、アップライトピアノなんですけど、使う予定じゃなかったんで調律とかしてなくて。変な音がいっぱい入ってるんですよね。
●柳原:あとドラムも面白い。
●奇妙:このアルバムは中込くんと2人でスタジオに入って録ったんで。だからドラムも僕か中込くんのどっちかが叩いてるんです。
●柳原:だからなんだ~! なんでこんなドタバタしてるのに歌にあってるんだろって思ったんだけど。
●奇妙:歌いながら叩いてるんです。
●柳原:そうなんだ、2人なんだ。……とても変わった音だなと思って。ちょっとホワイト・ストライプスとかの匂いもするなぁと。
●奇妙:やりっぱなしみたいな感じですよね。
●柳原:ビートルズの『ホワイトアルバム』とかね。あえてイントロもなくバッと曲が始まったり、曲の途中からバッと入ったり。それは、そういう曲ができたというより、そういう感じにしたかったの? いい意味での雑多なというか。
●奇妙:結果そうなったんですけど、ずっと録りっぱなしにしてたんで。どっちかがなんかやり始めたやつに、こんなんかなって乗っかってくというやり方だったんで。
●柳原:スタジオに入るときには歌詞はあるの?
●奇妙:ないんです。
●柳原:バンドマンだねえ~、ほんとにバンドマンだわ~。
●奇妙:はははは。楽しい作業でしたけどね。でもなんか自分のいいところと、自分ってこういうとこがあるなぁ……っていう、ちゃんと決まってないままどんどんやってくところが、全部入ってて。だからなんちゅーんですかね、出すのにけっこう怖いなとも思ったんですけど。
●柳原:あまりに自分だから?
●奇妙:きっちりパッケージされてるものじゃないから、どういう反応になるのかなぁって。
「ずっとでまかせって、すごいことですよ。恐ろしいですよ、そのパワーは」(柳原)
●柳原:このアルバム、作り方としては珍しい感じなんですか?
●奇妙:そうですね、この段階でバッと出したりするのは今までなかったですね。
●柳原:僕はさ、メロディックな人間って言われてたんだけど、実はそんなことはなくて。最初に言葉がないとダメなタイプなんですよ。だから言葉がない状態でレコーディングするっていうのは、もう恐怖でしかない感じなんだけど、そうではないんだよね。
●奇妙:恐怖です。
●柳原:恐怖だけどやってるの?
●奇妙:……自分が書いた歌詞、そんなに好きじゃなくて。
●柳原:歌詞を書くのは、あんまり好きなじゃない?
●奇妙:なんか……、家で作業するとか、一人で音楽を作っていくっていう感じが全然わからなくて。
●柳原:バンドマンだからね。
●奇妙:ええ。反応してくれる人がいる状態じゃないと何も始まらない。相手ありきなんで、一人で曲書く人ってすごいなぁと。
●柳原:もちろん僕も、歌詞も構成も曲の設計図が全部決まってることなんてないですよ。
●奇妙:自分がいいなって思う曲と、自分が作ってる曲にけっこう開きがあるなぁと思ってて。自分がいい曲やなぁって思う曲に比べると、自分の曲は足りひん部分がいっぱいあって、穴だらけだなって思うんです。特に今回のアルバムはすごい穴が開いたままの状態になってるので。これ、みんな、どういうふうに思うんやろうなぁと思うと、そわそわしてます。
●柳原:その穴がすごく面白いと思いましたよ。
●奇妙:それ、すごく嬉しいですね。
●柳原:そういう穴があると、言葉以上に心が揺すぶられるというか。そういう曲が多いアルバムだなぁと思った。僕が一番好きな曲はね、……なんだと思います?
●奇妙:うっわ~~~!
●柳原:もちろん『君はセクシー』はいい曲だなと思いました、うんうん。
●奇妙:自分が好きなのは『わたしの歌』と。
●柳原:ピアノが朗々とした越路吹雪さんの曲のような。
●奇妙:そうです、そうです。あと『春だったのかな』とか、『新しいノート』とか。
●柳原:それそれ。『新しいノート』は、「心がない」っていうフレーズが出てくるじゃないですか。すごかったなぁ。エルヴィス・コステロのデビュー曲『ウォッチング・ザ・ディテクティブズ』のサビに「彼には心がない」っていうのが出てくるんだよね。
●奇妙:うっわー! 当たったー! 2人で長いセッションしてたら、なんとなくそういう言葉がブワーッと出てきて。言いながら自分のことやなぁ、やばいやばいやばいと思って。
●柳原:ちょっと待って待って待って。歌詞がないって、もしかして、でまかせで歌ってるの?
●奇妙:そうですね、ほとんどそうですね。
●柳原:…………レコーディング、しながら?
●奇妙:はい。無茶苦茶ですよね。
●柳原:はぁ~~~~。……だからさ、僕、聞こうと思ったの。どう見てもでまかせで歌ってるよな、と思って。
●奇妙:そうです。
●柳原:だってさ、歌が自然なんだもん。歌詞を歌ってるように聴こえないんだよ。途中で笑ったり、グスッとか言ってるじゃない、あ~ぁとかさ。
●奇妙:言ってます、言い間違いとかもあるんですよね。
●柳原:なるほどねぇ、やっぱりそーなんだぁ。じゃあ、あとで歌を乗せるわけじゃないんだ。
●奇妙:そうですね。
●柳原:えっ、じゃなに? 歌詞が、その場で出てくるの?
●奇妙:無理矢理なんか言っていくっていうか。
●柳原:それ、すごくないですか。ちょっと俺、無理無理。無理っていうか31歳で諦めた。それまですごくそういうタイプで、もう嫌がられてたの、歌詞が毎回違うって。
●奇妙:すげえな、それもすごいですね。
●柳原:どちらかというと、たまのメンバーはきっちり作ってくるほうだったから。ちゃんと歌詞カードがあって、コード進行が決まってて。俺だけ、でまかせでよろしく~、♪ヘリコプタ~~とかやってたから。ものすごく軽薄なヤツということになってたんだけど。でもそれをお続けになってらっしゃる。
●奇妙:家でなんにも書けないんですよ。
●柳原:例えば聴いていた人達に影響を受けてたりしますか? レニー・クラヴィッツでも、ジョン・レノンでもいいんだけど。
●奇妙:ジョン・レノンはボックスセット買いました、中学生くらいのときに。
●柳原:俺も、いい歳で買いました(笑)。でもジョン・レノンのボックスセットに似てるかもしれない、『YOU ARE SEXY』は。
●奇妙:ボックスセット、好きな音なんですよね。中高生くらいのときに聴いてた音から、基本的に離れられないんですよ。
●柳原:いいですよね、『ストロベリーフィールズ・フォーエバー』のデモバージョンとか。
●奇妙:ジョン・レノンのパッとやった感じのやつとか、好きで。『ホールド・オン』っていう曲とか。
●柳原:もんのすごい偶然! 今日、『YOU ARE SEXY』を聴きながら、『ホールド・オン』歌ったらいいだろうなと思ってた!
●奇妙:あっ! ぜひやりましょー!
●柳原:すっごいいい曲だよね、あれ。
●奇妙:好きですね。淡々としてて。
●柳原:でも驚きました、ずっとでまかせって。それ本当にすごいことですよ。びっくりした。恐ろしいですよ、そのパワーは。
●奇妙:というか、現状を受け入れるって感じだけですけど。
●柳原:また釈迦みたいなことを。
●奇妙:いやいや、こんぐらいやな自分は、ってだけです。
●柳原:喩えて言うなら、ダウンタウンさんのフリートークみたいな感じなのかな。
●奇妙:うわっ、そんな敷居高いですね。だいぶ、神業みたいなじゃないですか。
●柳原:同じふうに見えるもん。
●奇妙:……いや、そんな。
●柳原:だってパッと出てきて、ちょっとネタがあったら、それを広げてくみたいな。
●奇妙:それで何かできたらすごくいいんですけど。
●柳原:すごいわ。やっぱバンドマンはすごい。
●奇妙:でも歌詞のきっかけになりそうなものは、いろいろ持って行くんですよ。ビートルズの日本語訳したやつとか、雑誌とか。
●柳原:雑誌?
●奇妙:『JJ』とか見ながら。
●柳原:女性誌の? それを見て歌うの?
●奇妙:化粧品のキャッチコピーが好きなんですよ。「夏、ひとりじめ!」とか、歌っぽいなぁと思って。キラキラしてる単語がいっぱい書いてあるし。
●柳原:今、思った。なんかあれだわ。芸人さんだわ、奇妙さんは。
●奇妙:でも芸人さん的なミュージシャン、めっちゃ好きです。
●柳原:あぁ~。ロックンローラー、バンドマン、それで芸人さんだ。いやはや参りました(笑)。
■出演:柳原陽一郎 / 柴田聡子 / 奇妙礼太郎
■開催日時
2017年10月17日 (火)
18:30 OPEN / 19:00 START
■開催場所
duo MUSIC EXCHANGE
東京都渋谷区道玄坂2-14-8 O-EASTビル1F
●duo MUSIC EXCHANGE Webサイト:http://www.duomusicexchange.com
■チケット料金
前売り¥3,800(税込) / 当日¥4,300(税込)
※ドリンク代別途¥500-必要
■主催:Music For Life
■企画・制作:SWEETS DELI RECORDS / Music For Life
ともに独自のセンスによる歌詞の世界が、常に注目されている柴田聡子と柳原陽一郎。その着眼点は音楽のみならずトークでも健在。なぜか「アゼルバイジャンと蒲郡」「ジャンプ競技」「スターの孤独」でスイッチが入り、ある意味ハッピーに暴走した挙げ句の果[…]
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