『ピテカントロプスになる日 Vol.4  ~歌手と詩人とロックンローラー~』Special Talk①
柴田聡子×柳原陽一郎

ともに独自のセンスによる歌詞の世界が、常に注目されている柴田聡子と柳原陽一郎。その着眼点は音楽のみならずトークでも健在。なぜか「アゼルバイジャンと蒲郡」「ジャンプ競技」「スターの孤独」でスイッチが入り、ある意味ハッピーに暴走した挙げ句の果てに、なんと「曲、作っちゃう?」に着地するとは……。どこかを濃く共有しているとしか思えない2人による予想のつかないコラボレーション、ちょっとスゴいことになりそうです。

「“なんで!”って思いながら歌ったら、今までやってきたことの何よりも手応えがあって」(柴田)


●柳原陽一郎(以下、柳原):音楽をやり始めたきっかけって、何だったんですか。

●柴田聡子(以下、柴田):そもそも私、小学校から高校までバスケットボールをやってて。完全に体育会系だったんですね。でも部活がなくなってからはちょっとヒマになったんで、家にあったお父さんのギターを弾いてみようかって思ったのが始まりですね。それで最初はゆずとか弾いてました。当時、地元の札幌ではストリートミュージシャンが流行ってたんで、なんか弾き語りっていいなと思って。

●柳原:そこで自分も曲を作ってみようと?

●柴田:その前に、友達に「私アイドルをやろうと思うんだ」みたいな子がいて。ラミ子ちゃんっていうんですけど、「アイドルなら歌えないとダメだから、私が作る」と言って作った『ラミ子のテーマ』が最初の曲作りです。

●柳原:歌い出しはどんななの?

●柴田:「お花畑から来ました」「食べ物は花の蜜です」っていう(笑)。それで初めて自分の曲を作ったのは大学4年のときです。

●柳原:音楽をやるような女の子って、だいたい15~16歳から曲を書いたりするけど。遅咲きのほうなんですね。

●柴田:今も咲いてるかわかんないですけど(笑)。

●柳原:咲いてますって(笑)。歌は好きじゃなかったんですか? 友達とカラオケに行くとか、なかった?

●柴田:そもそも歌うってことがあまりなくて。カラオケもお母さんとばっかり行ってました。友達と一緒だと緊張して歌えないんです。「歌って」と言われても、あたりさわりなく盛り上がる曲を歌ってましたね。

●柳原:どんな曲を?

●柴田:モーニング娘。とか。

●柳原:歌ったら、みんなが盛り上がってくれるような。そうすれば歌ってる私の存在は消えるぞ、みたいな。

●柴田:そうです、そうです。あ、あとSPEEDも歌ってました。

●柳原:よかったですよね~、SPEED。

●柴田:大好きだった。『Body & Soul』とか最高でしたよね。友達ん家で延々踊りましたもん。

●柳原:そういう、どちらかというと奥手な人が、なぜギターを持って自分で曲を作って歌おうと思ったんでしょ。

●柴田:大学が武蔵美(武蔵野美術大学)だったんですけど。大学4年のとき、卒業制作に関するプレゼンの場で、先生にいきなり「お前は歌うか踊るかするんでしょ?」って言われたんです。

●柳原:美大の卒業制作で歌うか踊るか? ……なんで?

●柴田:私、映像科だったんですけど、先生がけっこうクレイジーな、メディアアートの世界的な第一人者のおじいさんで。でも「どうしてそんなこと言うんだよ!」って思いながらも歌ってみたら、今までやってきたことの何よりも手応えがあって。しかもこんなに褒められたのは人生初っていうくらい、めっちゃ華々しく褒められたんです。

●柳原:どういう褒めだったの、それ(笑)。

●柴田:フランス人の電子音楽の大先生に「とにかく一緒にバンドをやりましょう!」って言われたくらい。それが嬉しくて。

●柳原:また出てきたよ、大先生が(笑)。いっぱいいるねぇ、大先生。

●柴田:そうなんです、気さくな大先生(笑)。

●柳原:そのバンドでも曲を書くようになったんですか?

●柴田:基本はインプロビゼーションのバンドだったんで、私も即興で言葉を言って。それを録音しておいて、あとで書き留めたり、再考して歌詞にするという感じでした。

●柳原:同じ同じ。たまのときはそうやって作ってた。なんだろ、なんか新しいことが起きてるような感覚があったよね。

●柴田:わかります。ちょっと意地じゃないですけど、新しいものを見つけてやるぞ、みたいな。楽しいだけじゃない道のりでもあるのに、何か見つけたいっていう気持ちがあって。

●柳原:そうそう。みんなで山登りしてるようなね。苦しいときもあるけど景色はいいし、達成感もあるし。そういう瞬間が無性に恋しくなるときがありますね。口からでまかせで喋ったことが、再構成されて歌になるような瞬間。ホントに昔はそういうのばっかりだったから。だからソロになったとき、すごく困りました。そんなふうに作れる場がなくなっちゃったんで。

●柴田:自分で全部考えなきゃいけないですもんね。

●柳原:そそそそ。だからいろいろ変わっちゃって。歌詞もだいぶ変わりましたよね。

「もうすべてが好意的に解釈される、素晴らしいループのなかに入ってらっしゃる」(柳原)


●柳原:歌を書くときってどういう感じなんですか。詞を先に書くんですか。

●柴田:決まってないです。詞が先だったり、曲が先だったり、構成から考えたり、打ち込みで作ってる最中にいろいろ変えていったり。詞と曲が同時というのもありだし、鼻歌もあり、ギターもあり、鍵盤もありっていう感じで。

●柳原:なんでもありなんだ。ほんとにアート系なんだねぇ。これ、褒め言葉ですよ。アート系じゃ~ん、じゃないですよ。

●柴田:嬉しい。ありがとうございます。

●柳原:僕の世代は、ロックが好きな人やギターが好きな人が歌作っちゃった、ミュージシャンになっちゃった、っていうことが多かったんですよね。あとはじくじく自分のことを書いて、それに曲をつける人とか。なんでもやる、打ち込みから入る、みたいな人はそんなにいなかった。それがYMOが出てきてちょっと広がって、打ち込みから入る人が出てきたり、自分一人でなんでもやる人が出てきたり。でも今は、そっちが普通なのかもしれないですね。

●柴田:だけど私もそういう感じになったのは最近です。アレンジとか、興味がなかったんで。

●柳原:僕もどんどん興味がなくなってきてるかもしれない。

●柴田:本当に? あるかと思ってました。

●柳原:バンドのときは交通整理しないと音がぶつかりあっちゃうから。そういう意味でのアレンジはしてましたけど。

●柴田:なんかマエストロだと思ってました。じゃ、曲には骨の部分があれば、と思うほうですか。

●柳原:骨と肉だけあればいいと思う。だって最近聴く音楽は、民族音楽弾き語り系ばっかり。インドネシアとか沖縄の音楽とか。大阪の河内音頭とか。アレンジっていうものがない、今しゃべってることが歌になってるみたいな音楽が好きで。だからアレンンジ脳がどんどん退化してるというか、なくなってきちゃった(笑)。

●柴田:ああいう民族音楽ってなんか詰まってますもんね。

●柳原:あと他の言語の歌を聴くと、日本の言葉がすごく整頓されちゃったことが残念になる。戦後、言葉が標準化されちゃったから。もともと日本語って母音が「あいうえお」しかない、世界でもほんとに母音の少ない言語なんですよね。他の言語は「あ」と「い」の間にいっぱい音があったりするのに。そういう日本語が整頓されちゃうと、どんどんつまらなくなっていくっていうか。結果、他の言語の曲ほど気持ちがモヤモヤしないんですよね。だから聴くのは、昔からずーっと洋楽で。

●柴田:歌詞に感動するのも洋楽ですか?

●柳原:そう。ボブ・ディランとジョン・レノンでしたね。だからって「湘南で シェケナベイベ~」みたいなのもダメで(笑)。そうすると自分は民族音楽のようなものをやるしかないのかってことになって、たまみたいなバンドを始めたっていう。

●柴田:でも私、ときどき憧れるんですよね、適当な感じに。日本語と英語が混ざってくるのとか。ラミ子のほうでは書いてるんですけど。ラミ子はアイドルなんでキャッチーさだけを考えて英語を使っていくので、陳腐な英語もガンガン使っていくんですけど。

●柳原:どういう英語?

●柴田:「このよるべなきクライシス」とか(笑)。

●柳原:その言葉自体が新しい人だって。僕だったら「お前とシーサイドトゥナイト」とか、くっさーいヤツですよ(笑)。

●柴田:そうなるんだ(笑)。という私もどっちかというと泥臭方面なんですけどね。

●柳原:いやいやアート系ですよ、全然泥臭くないですよ。

●柴田:そうですか? スタイリッシュには程遠いと思う。

●柳原:すごくスタイリッシュに見えるけどな。

●柴田:メガネが泥臭くないですか? どん臭いというか。

●柳原:いや、あえてどん臭くしてるのかなぁって見える。

●柴田:いや、そういうわけでは。

●柳原:もうすべてが好意的に解釈される、素晴らしいループのなかに入ってらっしゃるんじゃないですか。

●柴田:ならよかった~。

●柳原:いいな~、そのループ。羨ましい(笑)。

●柴田:じゃ、これから自信持っていくことにします!

●柳原:そうですよ。でも今日、初めて会って思いましたけど、柴田さん、カラッとしてますよね。

●柴田:すごいテキトーに生きてるんですけど、なんか昭和の、米洗って生きてるような感じに見られがちで。しんみりと羽釜で米炊いてるイメージ。

●柳原:あぁ~、シンガーソングライターって、どうしてもそういう感じに見られがちですよね。

●柴田:全然しんみりした人間でもないのに。食い違い、意外に多いですよね。

●柳原:食い違いで言えば、ライブって、ちょっと「……」っていうことがあるときのほうが、よかったりしないですか?

●柴田:します、します。

●柳原:この前、ノドの調子がちょっと悪かったとき、絶対ここの音はヤバいってビクビクしながらやってたんだけど。あとでビデオを見たら、すごいテイクがいいんですよ。ビクビクしてるようには見えないし。はぁ……、と思っちゃいますね。

●柴田:わかります。調子いいなぁ、体が軽いなぁっていうときは、わりとダメですよね。だからリハがめっちゃうまくいったとき、ちょっと心配になるんです。「バッチリだな、今日」と思った瞬間、「今日、やばい……」って。

●柳原:いいライブになるときって、リハと本番の間にご飯食べる時間もなかったり。なんかギターが不調で時間がとられちゃったり。もしかしてプチ災難くらいが、歌には一番いいのかね。

●柴田:それ、人類のテーマかもしれない。プチ災難がいいものになるって。なんですかね、勉強になるからでしょうか。

●柳原:災難を災難じゃない形にアレンジメントしていけば大丈夫、ってことなのかもしれないね。

●柴田:「人間万事塞翁が馬」ですか。最近、読む本、読む本にその古事成語が出てきちゃって。人生これなんだなって思いかけてるところなんです。

●柳原:そこまで達観できたら楽じゃないですか。

●柴田:思いかけても、それがなかなか受け入れられない(笑)。

●柳原:はははは。そんなもんだって、ブッダじゃないんだから。

●柴田:ですよね。それを聞いてすごい安心しました(笑)。

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