『ピテカントロプスになる日 Vol.4  ~歌手と詩人とロックンローラー~』Special Talk②
奇妙礼太郎×柳原陽一郎

共通点は「郎」がつく漢字5文字の名前と「出たとこ勝負のでまかせ」の歌詞。そして違いは「でまかせ」が未だ「現在進行形」である人と、「すでに卒業」した人であること。この2人によるステージは、なんとなく予想がつきそうな、でも全く予想外のコラボレーションになるような……ちょっとあなどれない組み合わせ。という郎×郎対決、しかと目と耳に焼き付けにいらしてください。

「ケンカするわけでも、モテるわけでもない、何もないけど、案外満足してる青春(笑)」(奇妙)


●柳原陽一郎(以下、柳原):はじめまして~。

●奇妙礼太郎(以下、奇妙):僕、柳原さんっていうか、たまっていうことだとニュース番組で見た覚えがあるんですよね。なんて言ったかな……、あの、足が綺麗な人の……。

●柳原:小宮さん。

●奇妙:あっ、そうです、小宮悦子さん。

●柳原:『ニュースステーション』ですね。

●奇妙:その思い出があるんですよね。

●柳原:なんだろ、記憶にないなぁ……。でもだいたいニュースっていうと「変わった人たちが出てきましたよねぇ。困った世の中ですねぇ」っていうくくりのオチがくる、みたいな。

●奇妙:ふはははっ。関西では“イカ天”(注:いかすバンド天国)をやってなかったんで、バンドブームの話になると不思議な感じになるんですよね。でも小学校6年生くらいのとき、テレビに出てきたブルーハーツの『リンダリンダ』を見て、怖いなと思ってチャンネルを変えたのは覚えてるんです。ドリフを見たかっただけなの、「うわっ、怖い!」と思って(笑)。

●柳原:たしかに子どもには怖い(笑)。じゃ、最初に自分で買ったレコードは何でした?

●奇妙:レコードは大人になってからですね。だから最初に自分のお金で買ったのはCDで、たぶんレニー・クラヴィッツです。

●柳原:すごい人気が出てきた頃の。

●奇妙:親に買ってもらったのやと、『ウィングマン』(注:夢戦士ウイングマン)っていうアニメの本がついてるカセットテープだった気がするんですけど。特別なノートがあって、それに描いたものが現実になって現れるという話のアニメで。それの♪ウィングマ~ン、飛べない空を~みたいな曲のカセットを買ってもらった覚えがありますね。あと、家にあったCDとかカセットとかもよく聞いてました。押し入れのなかに打ち捨てられた感じでブワ~とあって。ヒマやからウォークマンみたいなやつで、いろいろ聴いて。

●柳原:それは、どんなジャンルの音楽だったんですか。

●奇妙:いろいろあったんですけど、好きやったのはカセットにダビンされてた上田正樹とサウストゥサウス。

●柳原:お父さんとかお母さんが好きだった?

●奇妙:そういう話、したことないんですよね。でもお父さんは、やしきたかじんさんが好きでした。車のなかに、やしきたかじんさんの歌を歌ってるお父さんのカセットテープがあって。スナックとかで歌うための練習を、車のなかでしてるんやろうなぁと思いながら聞かされてました。

●柳原:でも最初に買ったのはレニー・クラヴィッツ。

●奇妙:なんでかわからないですけど(笑)。

●柳原:お父さんは音楽が好きだったんでしょうね。

●奇妙:だと思います。ギターも家にありましたから。

●柳原:お父さん、自分でも音楽をやる方なんですね。

●奇妙:なんかやってましたね、変なパネルもありましたね。

●柳原:パネル?

●奇妙:思い出なんでしょうね、「若いとき、こんなんしてた」っていう。ギター弾いて歌ってる写真のパネルが飾ってあった。

●柳原:どんな歌を歌ってたんだろ。

●奇妙:どうなんでしょうね。

●柳原:あんまり喋んないんだ、お父さんと。

●奇妙:そうなんですよね。仲悪いとかじゃないんですけど。

●柳原:お父さんから「あの歌がさ」とか、「俺はこう歌う」とか、そんな話にはならないの?

●奇妙:何回かありましたけど、思いっきり無視しますね。まだ自分も若かったから、「歌詞、もうちょっと考えたほうがいいと思うけどなぁ」とか言われても無視。

●柳原:そこらへんの話はプイッといくよね。褒められてもプイッとなるしね。確かにそうだ。

●奇妙:そう、そうなんですよね。

●柳原:音楽をやろうと思ったのはいつ頃? 中学とか高校?

●奇妙:それが、すごく音楽が好きとか、のめり込んでるとかではないタイプで。僕、その、なんて言うんですかね、しんどいことがイヤで。だから勉強もスポーツも、なんにもできなかったんです。

●柳原:でも学校には行ってた。

●奇妙:行ってました。だけどケンカするわけでもなく、モテるわけでもなく、何もない人達でちょっと集まって。毎日そういう4、5人でゲームセンター行ってました。それで王将かマクドナルドに行ってワイワイって帰る。という何もない青春(笑)。

●柳原:そこで何もない人達が集まって「俺達あまりにも何もなさすぎるぜ、一発何かやってやるぜ!」みたいな話も。

●奇妙:ない。案外満足してるんですよね。学校に不満もないし、帰ったらおやつあるし、テレビ面白いし。幸せでしたよね(笑)。

●柳原:僕も高校生のときは学校がつまんなくて。でも奇妙さんと違うのは全然満たされなくて、足りない足りないと思ってた。

●奇妙:さてはロックンローラーですね。

●柳原:やめてくださいよ(笑)。だけどヘタレではあって。いかにしてポルノ映画館に入り込むかとか、そんなことばっかり考えてましたから。

●奇妙:そこ、一緒ですね(笑)。

「こんなこといつまでやっていられるんだろ、と思いながらのだましだましが面白いのよ(笑)」(柳原)


●奇妙:歌っていうことだと、ちょうどコンテナを改造したカラオケボックスができ始めた時期で。中高生のお小遣いで行けるくらいの金額やったんで、みんなと行って順番に歌って。そしたら友達が褒めてくれて。

●柳原:何を歌ったの?

●奇妙:チャゲアス(注:CHAGE and ASKA)とか歌ってた気がするんですけど。その頃『SAY YES』がめっちゃ流行ってたんで。それまで何かして褒められたことがなかったんで、嬉しくて。

●柳原:それで家にギターもあるから。

●奇妙:触ってみようと思って。本棚に浜田省吾さんのコードブックみたいなのもあったんですよ。めくってみたらコードが書いてあって、下のほうに弦の押さえ方のダイアグラムもあって。楽器とか触ったことなかったんですけど「できるかもなぁ」と思って。

●柳原:浜省を歌った。

●奇妙:歌いました。浜省、好きなんです。

●柳原:それで? まだオリジナルには辿りつかない(笑)。

●奇妙:全然です。カセットのレコーダーに誰かの歌を歌って吹き込んで、それを巻き戻して聴いて。やっぱ下手なんで、どこを直したらいいんかなって考えて。元の歌に寄せていくって感じで遊んでたんですけど。それが楽しくて一人でやってましたね。でもこれを人に見せたりとか、これを仕事にしたいとか、全くなくて。

●柳原:するとオリジナル曲を作ったのはいつになるんですか?

●奇妙:初めて組んだアニメーションズっていうバンドがライブハウスに出るにあたって、「どうも、そういうオリジナルみたいなのがいるらしい」ってことになって。みんなでスタジオに入って、なんとなく曲を作ったのが最初ですね。

●柳原:曲を作る前にバンドを作っちゃったってことは、最初はコピーバンドかなんかで。

●奇妙:大学に入った頃、ギター弾いたりするのが好きやったんで軽音楽部に入ったんですけど。そこではいろんなコピーバンドをやってて。でも「外でなんかするときは人の曲はあかんみたいだから、どうします?」ってことになって。

●柳原:ゲーセンと王将の退屈だけど満たされてる毎日から、ちょっと違う感じになってきたんですかね。

●奇妙:いや、あんまり変わってないかも(笑)。実家がうどん屋というか、製麺所みたいなのをやってて。それを継ごうと思ってたから別に勉強する必要もないし、のんびり生きていこうって、趣味でバンドとかやって楽しく過ごしてたんです。だけど26歳くらいのときに、その頃は僕も実家の製麺所で働いてたんですけど、それが潰れて。このままじゃまずいなぁと思いながら、ゲーム機の故障を受け付けるコールセンターでバイトを始めて。でもなんちゅうんですかね、毎日職場に行くの、イヤやなぁと思って。

●柳原:仕事が大変だった?

●奇妙:仕事自体は楽しかったんですけど、毎日同じ時間に起きていくのも大変やなぁとか(笑)。あとその頃、なんか一人で歌ったりもしてて、友達のイベントに誘われて出ることもあって。遊びに行く延長だったんで、お金もらうことはなかったんですけど。呼んでくれるんやったらお金ももらえるかなと思って、一回請求してみたんです。行って帰ってくるのもお金かかるから、みたいに。そこで「なら、もういいわ」って言われたら、それはそれでいいしって思ってたら、案外すんなりお金くれんねんなって。

●柳原:交通費にプラスちょっとくらい出して、って。

●奇妙:「あれっ? くれるんやなぁ」と思って。気持ち的にはそれの延長で今もやってるって感じで。だから、こんなこと、そのうちなくなるやろうな、とも思いますね。

●柳原:お金をくれる人がいなくなるかも。

●奇妙:ええ、ええ。そういう気持ちもすごいありますね。

●柳原:それはビビる感じ? そんなもんかぁって感じ?

●奇妙:そりゃそうやろうな、みたいな。そのタイミングを、なるべく伸ばしていきたいですけどね、だましだまし(笑)。

●柳原:こんなこといつまでやっていられるんだろ、と思いながらのだましだましが面白いのよ(笑)。でもさ、もし製麺所が傾かなかったら、今も大阪でおうどん屋さんをやってるのかな。

●奇妙:やってます、やってます。で、趣味はギター弾いて歌うことって言ってると思う(笑)。

●柳原:そういう物の考え方って、自分の気持ちの根本にあったりする? 堅苦しい言葉でいうと「諸行無常」じゃないけど。

●奇妙:そうですね、妙に期待しないことにはしてますね。誰かがこんぐらいやってくれるやろう、みたいに思ってたときもありますけど、逆にしんどくなってくるから。

●柳原:期待するのがね、わかるわかる。

●奇妙:だから自分の範囲のことはちゃんとやろう、みたいな感じですかね。

●柳原:東京に出てきたのはいつ頃?

●奇妙:4年くらい前です。自分から頑張って東京にライブをしに行ってたときもあるんですけど、8年くらい前から東京のライブがわりと普通に入るようになって。5年くらい前に、大阪の仕事より東京のほうが全然仕事あるなぁと思って。だから出稼ぎ感で来たって感じです。

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