Music For Life presents 「きりん座へ贈る手紙」スペシャルインタビュー

Music For Lifeが企画・制作する国の重要文化財 自由学園明日館でのピアノ弾き語りライブ。出演者は小谷美紗子、そして高井息吹。二人は明日館へ訪れて、初めて対面をする。ピアノを通じてどんなことを話すのか。お楽しみください。

■インタビュー・文:前原雅子
■撮影協力:自由学園 明日館

「高校の先生に教えられて小谷さんを知りました。俺の奥さん、小谷さんを聴いて、会社を辞めたんだよって」(高井)


──高井さんが、小谷さんを知ったのは高校の先生がきっかけだそうですが。

●高井息吹(以下、高井):軽音楽部の顧問で、担任でもあった先生が、ギタリストを目指してたくらいめちゃめちゃ音楽好きな方で。その先生に、自分の初めてのCDを差しあげたとき、「小谷美紗子さんって知ってる?」って言われて。すみません、失礼ながら、私はそれまで存じておりませんで。

●小谷美紗子(以下、小谷):いえいえ、全然全然。

●高井:そのとき「お前はまだ自分のために歌を歌ってる。小谷美紗子さんを聴いてみろ」って言われたんです。先生の奥さんも小谷さんのことがとても好きで、「俺の奥さんは、小谷さんを聴いて会社を辞めたんだ」って。

●小谷:……えっ!やべえ、やべえ。やべえ、やべえ(笑)。

●高井:「お前も、それくらい歌に力のある人になれよ。いつか一緒にやってるところを見てみたいぞ」って言われた、その言葉がすごく印象に残ってて。だから今回のライブが決まったときも、すぐ先生に「小谷美紗子さんとツーマンやるよー!」って言ったらめちゃくちゃ喜んでくれて。ライブにも来てくれます。

●小谷:ぜひぜひ、奥様も一緒に。責任をとらないと(笑)。

●高井:私も不思議なご縁だなぁって、本当に思っていまして。

●小谷:とんでもないですよ、そんな。

●高井:でも本当に今回は嬉しくて。CDもですけど、とにかくライブが素晴らしくて。歌声に世界がある方だなぁって思いました。CDを聴いたときにも伝わって来た深くて澄んだ感覚が、そのまま伝わって来て。おおぉ~~!って思ったんです。……あ、小谷美紗子さんだって圧倒されてしまって。だから小谷さんと一緒にやれる日が来るにしても、とても遠いことだと思ってたんです。まさかこんなすぐ叶うと思ってなかったので、今もかなりドキドキしてるんですけど。本当に自分の中では重要な出来事になると思ってます。

●小谷:いやいや、どうしよう、そんな褒められちゃって(笑)。

──お2人ともピアノを弾かれますが、何歳から始めたのですか。

●高井:ピアノは5歳から始めたんです。

●小谷:私は3歳になるちょっと前くらい。だからバイエルとかの教則本じゃなくて、先生が画用紙に手書きで音符を書いてくれて、音符の上に「ド」「レ」と書いてあって。もちろんまだ字も読めないから、音符と一緒に平仮名や片仮名も教えてもらって。なので最初の覚えた字は「ドレミファソラシド」。他の字は知らない(笑)。

●高井:私は母親がピアノとかオルガンをやってたので、習い始めたのは5歳なんですけど、その前から、なんか気づいたらピアノに触ってたんですよね。

●小谷:そうそう、私も家にピアノがあって。姉兄が先にやってたんで、それにつられてなんとなく自然に始めた感じですね。高井さんは、最初はお母さんに教えてもらった?

●高井:そうですね。最初は母親に教えてもらって、幼稚園の年長くらいからピアノ教室に行くようになりました。でもクラシックの曲を楽譜どおりに指を丸くして弾く、みたいなのがすごい嫌で。好きな曲を弾きたいように弾くのは好きだったんで、そうやって弾きまくってると怒られるんですよ、「そんな弾き方してたら、きれいに弾けなくなっちゃうよ」って。だけど負けずに♪トットロ、トト~ロとか、好きな曲を弾いてました。

●小谷:私は逆にクラシックが好きだったので、それを弾けるようになりたいと思ってたから、私にとってのお気に入り曲はバイエルとかツェルニーのなかにあったっていう。ピアノの教則本ではあるんですけど、すごい綺麗な曲がたくさんあるんですよね。でも私も練習が嫌いだったから好きな曲しかやらなかった(笑)。

●高井:ホントに練習が(笑)。中学生のときとか、親から「絶対1曲3回は弾きなさい、1時間はやりなさい」みたいなことを毎日厳しく言われて。それは頑張ってやって、習慣にはなってましたけど。

●小谷:先生は厳しかった?

●高井:教室の先生は優しかったですけど、お母さんは厳しくて(笑)。本当によく怒られましたね。怒られるのはピアノの練習くらいだった思います。

●小谷:私の先生も激怖でした。というか飴と鞭。レッスン以外のときは本当に優しくて、「発表会でこういうドレスを着たらどう?」「美味しいものを食べに行こう」と言ってくれたり、パーティーとかもよく開いてるようなすごい華やかな先生だったんです。そういう夢のような世界を見せつつ、レッスンのときは背中をバンバン叩かれるっていう。だから生徒は先生のことを怖がってはいるけど、先生のライフスタイルにはちょっと憧れてるみたいな。レッスンのときの服装も、自分の家の周りにこういうおばちゃんは1人もいないくらいオシャレなんですよ。

●高井:素敵な先生ですね。

●小谷:ちょっと中村紘子さんに容姿が似てるんですよ。

●高井:それは素敵。

●小谷:ゴージャスというか華がありました、服装もなにもかも。

「小学3年でピアノに挫折。そこでスパッと歌に切り替えました。そうだ、私には歌があるじゃないか!って」(小谷)


──その後、ピアノ弾きつつ歌うようになるわけですよね。

●高井:私は歌い始めたのが大学に入ってから、19歳のときで。

●小谷:それまで、ピアノを弾いてるときにちょっと声を出して、みたいなことはなかったですか。

●高井:中学生のときに歌うことがすごく楽しくなって「私、歌う人にないたい」と思ったんです。だけど歌に全然自信がなくて。やっぱりピアノのほうが自分にとっては自由度が高かったんで、私にはピアノしかないんだろうなって思っちゃったんですよね。でも19歳のときに「いや、思い切ってやろう!」と思って、もう最初は体当たりするように歌い始めたんです。

●小谷:何かきっかけがあったんですか。

●高井:もともとはバンドにすごく憧れてたんです。でも一緒にやりたい人が見つからなくて。だけどとにかく自分の音楽をやりたかったし、自分を表現する場を持ちたかったんですね。まだ曲もちゃんと作ることはできてなかったんですけど、自分のなかには自分の音楽がある、自分の言葉で自分の思っていることを発信したい、自分を一番表現できるのは曲を書いてピアノを弾いて歌うことなんだと思って。なんかもう「うぉぉぉお~!」って炎がメラメラ~ってなって(笑)、ぶつかっていくような感じで始めました。

●小谷:メラメラ~っと勢いよく燃えてしまった。

●高井:時間をかけて溜まりに溜まったマグマが、バーン!と一気に吹き出てきたみたいな。そこで一気に開けて。あのときに一歩踏み出せてなかったら、自分がどうなってたのかなって思うと、ちょっと怖い(笑)。ずっと表現したい欲求みたいなものがあったんだと思うんです。それが、そのタイミングで爆発したというか……。

──小谷さんも、マグマの爆発みたいなことがありました?

●小谷:私はピアノに挫折するのが早かったので。小学校3年生くらいのときに、すごく好きな曲が手が小さすぎて弾けない、ピアニストは無理だっていう現実を突きつけられて。先生からはジャズピアニストを勧められたりしたんですけど、ずっとクラシックのピアニストになりたいと思ってきたから、そっちの道は考えることができなくて。今思うとジャズの勉強もやっときゃよかったのに(笑)。でもそのときはクラシックの曲の組み立て方とか、メロディーの流れ方にすごい感動をもらって、それを弾くことで感動する、それが好きでピアニストになりたいと思ってたので。

●高井:これが難しいということになってしまったから。

●小谷:そうそう。また近所に住んでた親友もピアノをやってて。彼女は超本格的にやってたんですね、お母さんと一体になって、もう本当にピアノに集中する生活をしてて。それを見て、やっぱりピアノを本気で目指す人は、これくらい弾けなきゃいけないんだなって思うようにもなったんです。そういうこともあって、歌もピアノと同じくらい好きだったから歌にしようって、スパッと歌に切り替えました。そうだ、私には歌があるじゃないか!って。

●高井:すごいですね、小学3年生で。

●小谷:父の影響もあると思います。父はいつも「お前のピアノはすごくいいものを持ってる。歌も同じくらいいいと思う」って褒めてくれてたんで。そういう父のコーチングも大きいでしょうね。

──ということは、それまでも家でよく歌っていた。

●小谷:歌ってました。父がレコードとか音響機器が好きで、その昔は、どうやったら音が出るかを突き詰めて自分でスピーカーを作ってたっていうくらい、音とか音楽が好きな人で。それもあって普通はお店にしかないような大っきなレーザーカラオケも、家にあったんです(笑)。

●高井:家族で歌ったりするんですか。

●小谷:姉兄や母も楽しく歌ってましたけど、基本、父は「お前が歌え」と。「この曲、歌ってみろ」って次々に私に歌わせてました。

●高井:どんな曲を?

●小谷:わりと古い曲が多かったですね、プレスリーとか。あとピアノの先生の影響で『サウンド・オブ・ミュージック』が大好きだったんで、それもよく歌ってました。父が買ったちゃんとしたマイクを使って(笑)。

●高井:すご~~い!! すごいお父さんですね。

●小谷:高井さんも、お母さんの影響は大きいんじゃないですか。

●高井:母親はホントにクラシックだけって感じなので。小谷さんのお父さんのような楽しいことはあんまりなかった(笑)。

●小谷:私は逆に羨ましい。クラシックのピアニストになりたかったので、母親がクラシックのピアノの先生って、すごい嬉しかったと思う。うちは父はクラシックとか洋楽が好きで、母は洋楽と井上陽水とみたいな感じでだったんで。

●高井:めちゃくちゃ羨ましい。両親がいろんな音楽が好きだといいですね~。うちはそういう環境じゃなかったので、自分で見つけるみたいな感じだったから。だから本当の意味でいろんな音楽を聴くようになったのは、ずいぶん後になってからですね。


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